いしぶみの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
321人という無機質な数ではない、1人1人、家族がいて友達や先生がいて、それぞれの人格を持っていた旧制の広島二中の子どもたち。薄暗いスタジオに置かれたいくつもの木箱は、さしずめお棺の模型か。それにしても原爆投下による阿鼻叫喚的なシーンは一切ないのに、このスタジオをベースにして紹介される1人ずつの遺影と氏名、ささやかなエピソードは、粛然とするほどリアルに心に迫る。綾瀬はるかの余白のある淡々とした語りも、想像力を喚起させ、関係者への取材も余韻を残す。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
綾瀬はるかは“海ゆかば”のアクセントや幾つかの語の切り方が気になるが、清潔さ(のイメージ)を持ち、この企画に相応しい。おーい広島二中のみんな、はるかおねえさんが見えるかー、これは君らに供えられたスピリチュアルなグラビアだぞー。本作のルーツ、松山善三・杉村春子版『碑』は未見だが、この版はそこでは優るかも。選挙番組では辛辣の権化である池上彰が本作で生存者に対するときなんと柔和なことか。オバマ広島訪問にあった表層化に抗う作品。その意図に賛同する。
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映画評論家
松崎健夫
昨今の〈不謹慎狩り〉なるものは、事象に対して直接関係ない第三者の声が大きいのではないか? と指摘されている。本作では広島の原爆から生き残った人々の声も綴られてゆくのだが、彼らの多くは「なぜ自分だけが生き残ったのか?」という苦悩を抱えている。ここには〈不謹慎狩り〉に対するひとつの答えがある。我々は世の不幸を全て受け入れることは出来ないが、それでも生きてゆかねばならない。それゆえ、綾瀬はるかのバックグラウンドを鑑みて、彼女が朗読する意味をも見出すのだ。
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