さとにきたらええやんの映画専門家レビュー一覧
さとにきたらええやん
日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区釜ヶ崎で38年続く子どもたちの憩いの場“こどもの里”に密着したドキュメンタリー。さまざまな困難を抱えながら日々成長していく子どもたち、そんな彼らを支える職員たちや街の人々の奮闘を映し出す。音楽は釜ヶ崎出身のヒップホップアーティスト、SHINGO★西成。大阪在住の重江良樹による初監督作。
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評論家
上野昻志
里といっても、山里ではない。大阪は釜ヶ崎にある「こどもの里」だ。親子の関係に問題のある子や、不登校の子や、いろいろな子たちがいるが、とにかく、みんな元気だ。子どもたちは、里の前で古着を売ったり、広場で開く運動会では、街の大人たちと一緒に走り、夏祭りには、館長の荘保さんを筆頭に踊ったりする。また冬には、不登校だった中学生を先頭に「子ども夜回り」といって野宿の人たちにカップラーメンを配り、話を聞くのだが、そんな彼らの姿に、この里の得がたい力を感じる。
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映画評論家
上島春彦
難しく言えば地霊、要するに釜ヶ崎という土地の持つ独特の雰囲気がこんなに生きた映画は稀だ。生活破綻者の実母から離れて「里で」暮らす少女、知的障害と判断されて学校に行きたくない少年、他、雑多なエピソードを織り込み、ここにやってくる者それぞれの過去現在から旅立ちまでをきちんとまとめ上げる新人監督の手腕に感服した。結構みんなよく泣くのだが、無駄に「泣かせる」ための映画にはしていない。森﨑東の七十年代初期作品みたいな感触。里のお母さんが倍賞美津子っぽい。
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映画評論家
モルモット吉田
隣町に住んでいた頃、難波への通り道だった西成の印象は冒頭と最後に自転車が周回して映す町の気分に近い。自転車から降りることが少なかった筆者と違い、こどもの里でボランティアをしていたという重江監督は地に腰を下ろし、同じ目線で向き合う。それまで使用されなかった字幕が不意に映る後半、残酷なクライマックスを予感させ動揺する。里の日常に心地よく浸って観ていたからだ。老人の町と今では思われがちだが、若者を主体に描いて町の若々しい一面を切り取った視点もいい。
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