幸福は日々の中に。の映画専門家レビュー一覧
幸福は日々の中に。
鹿児島市内の知的障がい者施設・しょうぶ学園のドキュメンタリー。園生によるパーカッショングループや、カフェレストランなども点在する美しい園内にある刺繍工房、木工所などで手仕事をする園生の姿を映し出し、今を生きる私たちに様々な問いを投げかける。「ステップ・アクロス・ザ・ボーダー」のドイツ人映像作家ヴェルナー・ペンツェルと、「島の色 静かな声」を監督し、写真家でもある茂木綾子による共同監督作品。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
知的障がい者施設の記録映像だが、ドキュメンタリーというよりPVに近い。施設の運営では、資金の調達や入居者同士の人間関係など、きれいごとで済まぬ諸問題が渦巻いているはずだが、本作はそうしたリアリティには決然と目を閉ざし、入居者が日々取り組む楽器演奏や陶芸、絵画などの芸術活動を審美的に描写することに注力する。汚くて厳しい社会から隔絶された方舟的メルヘンの構築を、過激なまでに志向した異色作だ。その裏では妙な厭世観が漂流しているように思えてならない。
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脚本家
北里宇一郎
ドキュメンタリーって取りあげた題材が第一、映画的な味わいは二の次みたいなところがある。が、この作品は描かれている内容もいいけど、映画感覚が冴えている。撮影、構成、編集、音楽と、すべてが考え抜かれ、それをぎゅっと凝縮した印象。作り手はアート系の人たち。常識に囚われない伸びやかさを感じる。ここに登場の障がい者たちを同じ地平の表現者として捉えているところに感銘。世界を百八十度転回させて物事を見たら、気持ちが楽になって自由になった――そんな心地にさせる快作。
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映画ライター
中西愛子
鹿児島市内にある知的障がい者施設、しょうぶ学園。社会のルールに抑圧されることなく、彼らがありのままで、好きなことをしながら暮らすことのできる場所だ。5年間をかけて施設に通い、ここにいる人々の生き生きとした姿と日常をとても近いところからカメラはとらえる。彼らがバンドで演奏する音楽や、手作業で生み出すクラフトに漲る深い解放感が心地よい。“普通”とは何だろう、と人間の本質について鋭く問い、考えを語る福森伸学園長のコメントにも大きな示唆があった。
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