はじまりへの旅の映画専門家レビュー一覧
-
翻訳家
篠儀直子
宣伝ヴィジュアルから想像されるようなポップな演出ではなく、リアリズムと言っていい演出なので、こちらもリアルな問題としてあれこれ考えてしまい、その結果「これは暴君の自己陶酔と虐待以外の何物でもないではないか」という結論に至ってしまうのに、ひたすら肯定的に描かれるから、こりゃ(昔の)ヘルツォーク作品みたいな奇想の人の映画として観るしかないのかと腹をくくった途端、父ヴィゴが急に己を疑いはじめて普通のヒューマンドラマへ向かうのでびっくりした。撮影がいい。
-
映画監督
内藤誠
誰しも子どもに「普通」の教育を施そうと苦労しているので、ヴィゴ・モーテンセンが6人の息子と娘たちを学校にも行かせず、大自然のなかで自由奔放に教育しているのを見ると、羨ましくもあり、その過激さに思わず笑ってしまう。だが、現行の教育制度を否定していながら妙に知的で、チョムスキーからグレン・グールドまでキメこまかく引用。この家族を支配したのは遺骨を公衆便所に流すようにと遺言したモーテンセンの亡き妻で、ヒッピー文化のカルト性が周辺の人々には怖かったのだ。
-
ライター
平田裕介
キー・アートを一見すると「ロイヤル・テネンバウムズ」+「リトル・ミス・サンシャイン」なノリかと思うが、そんなことあらず。たしかに変わった一家のロードムービーだが、父親越えを軸とした泣ける家族劇であり、いかなる主義、思想、宗教にも完璧なものはないと突きつける真摯なドラマでもある。それでいて、一家と外世界とのイデオロギーorカルチャー・ギャップをめぐるギャグも用意して笑わせてくれるのも◎。家族総出でカバーするガンズ〈Sweet Child o' Mine〉が美しすぎる。
1 -
3件表示/全3件