ノー・エスケープ 自由への国境の映画専門家レビュー一覧
ノー・エスケープ 自由への国境
「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロンが製作を務め、息子ホナス(監督も兼任)の脚本を映画化したサスペンス。アメリカに不法入国を試みた15人のメキシコ人たちが、逃げ場のない砂漠の国境地帯で銃撃を受け、命懸けの逃走劇を繰り広げる。主演は「俺たちサボテン・アミーゴ」のガエル・アルシア・ベルナル。
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翻訳家
篠儀直子
メキシコ国境近くを舞台にした不法移民をめぐる話だから、政治的メッセージが強烈に出ている映画と思われるかもだが、物語を骨組みだけにしてしまえば、実はキャンプ中の若者たちが殺人鬼に襲われるホラー映画と同じ仕組みである(次に犠牲になるのが誰かをだいたい予想できる点も同じ)。とはいえ、西部劇を思わせる風景のなかで話が展開されること自体に、高い批評性を見出さずにはいられない。そしてまさにこのアメリカ的ランドスケープこそが、めざましく劇的な演出効果を上げる。
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映画監督
内藤誠
冒頭、十六人のメキシコ人たちがアメリカへの越境を試みる車で聖書の出エジプト記のことを口にするが、モーセに匹敵する指導者はいない。だからジェフリー・ディーン・モーガン演じる帰還米兵らしい男が銃を手に猟犬を連れて、「ここは俺の国だ!」と喚きながら、発砲してくると、次々に血しぶきをあげて倒れていく。その殺戮描写は、実に残酷で、これがメキシコ人スタッフのイメージするトランプ支持派のアメリカ人像かとおもうと、もはや娯楽映画の範囲を超えて、うすら寒い気分に。
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ライター
平田裕介
トランプによって壁と密入国者が取り沙汰される現在ならではといえる設定と物語ではある。ただ、主人公が国境越えに命を張る理由は提示されるのだが、密入国者狩りに執心する襲撃者の背景を浮き上がらせない。かといって、それによって正体も動機も不明な不気味さが出ているわけでもなし。ドキュメント「カルテル・ランド」に出てくる米側自警団の個人版みたいなキャラだとは想像がつくが、コイツの密入国者に対する怨嗟などのあれこれも明確にしたほうがスリルに拍車が掛かったはず。
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