ある戦争の映画専門家レビュー一覧

ある戦争

「光りのほうへ」「偽りなき者」脚本のトビアス・リンホルムが監督した人間ドラマ。アフガニスタンに駐留するデンマーク軍部隊長クラウスはタリバンの襲撃を受け、敵が発砲していると思われる地区の空爆を命じる。しかしそこにいたのは罪のない民間人だった。出演は、「LUCY ルーシー」のピルー・アスベック、「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」のツヴァ・ノヴォトニー、ドラマ『コペンハーゲン/首相の決断』のソーレン・マリン。第88回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。一般公開に先駆け、新宿シネマカリテの特集企画『カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016』にて先行プレミア上映(上映日:2016年7月30日)。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    アフガニスタン駐留デンマーク軍が、ある日タリバンの猛攻を受け、たまらず空爆を要請した。民間人の犠牲者が出たこの空爆をめぐり、部隊長は軍事法廷にかけられる。空爆した第6地区は本当にタリバンの攻撃拠点だったのか? 映画は、裁かれる部隊長の心象を中心に写し出す。戦場と法廷、爆撃音と言葉、アフガンの荒野とコペンハーゲンの夜景。対照的な時空間でありながら、容赦なく主人公を追いつめるという点で共通する。正解のない難問に鋭く切り込んだ手厳しい意欲作だ。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    アフガニスタンに駐屯するデンマーク軍中隊の話。戦場と家庭描写がカットバックされ、兵士ひとり、その命の重さが描かれる。それはまた戦闘場面の緊張感をも昂めて。後半は裁判劇となり、主人公の部隊長がはたして家庭に戻れるか、そのハラハラで引っ張り、さらにその先の結末で、はじめて戦争の意味、その罪が問われる――と、よく考え抜かれた脚本と演出。逆に、そこに計算くささが少し匂うが、好篇佳作であることは間違いなく。昨今のアメリカの戦争映画に較べれば納得の一作。

  • 映画ライター

    中西愛子

    本作の監督T・リンホルムは、冷徹な観察眼で人間や世界を見ている。彼が精緻な描写力で映し出すのは身も蓋もない現実だ。戦争映画だが、後半、アフガニスタンの戦地で軍規違反をした主人公がデンマークに帰国し、これに関する裁判が始まると、別の意味で妙な気持ちになってきた。ここに女検事が登場する。その描かれ方。ホモソーシャルな軍隊精神が、フェミニスト風の彼女を封じ込める。これが社会の現実だと受け止めろということか? 定石を乱す社会的生き物としての女への不寛容に胸騒ぎ。

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