アスファルト(2015)の映画専門家レビュー一覧

アスファルト(2015)

俳優・監督のサミュエル・ベンシェトリがイザベル・ユペールらを迎え、自身の著作をユーモラスに映画化した群像劇。車いす生活を送る冴えない中年男やいわくありげな美人看護師ら6人の孤独を抱えた者たちが郊外の団地でめぐりあう出会いと奇跡を紡いでいく。ほか、「ラストデイズ」のマイケル・ピット、「ふたりの5つの分かれ路」のヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、サミュエル・ベンシェトリの息子であるジュール・ベンシェトリらが出演。劇場公開に先駆け、フランス映画祭2016にて上映(上映日:2016年6月25日)
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    近年日本でも中村義洋、是枝裕和、阪本順治らによって立て続けに劇化された団地空間が、フランスでは完全に低所得者層の典型的表象となる。3組のボーイ・ミーツ・ガールの物語――落ち目の女優と男子高校生、着陸ミスした宇宙飛行士とアルジェリア系未亡人、ニセ写真家と看護師――はいずれもメルヘンである。空間は、脚本家が握る試験管としてのみ存在しているのだ。場末で細々と暮らす小市民にもちゃんと幸福がありますよというヒューマニストの化合物を生成する試験管である。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    団地を舞台にして三つの人間模様が綴られる。米国の宇宙飛行士が、突然、空から舞い降りてくるオカシさ。その飛行士がイスラム系の老マダムと心を通わせる挿話が印象的。中年女優と若者の挿話はユペールと新人男優の持ち味を生かしているが、面白さは程々。おっさんと夜間看護師の挿話は無理矢理の展開でちと空回りの感。てな具合にバラツキが。全体、すっとぼけたユーモアがあり、乾いたタッチなのはいいが、演出が狙いすぎというか、作為が表に出すぎて、もう一つ沁みてこない憾みも。

  • 映画ライター

    中西愛子

    フランス版「団地」といったところだろうか。郊外のおんぼろ団地で、3組による3つのエピソードが繰り広げられる。いずれも孤独と意外な出会いが織り成す、ちょっといい話。淡々としながらクスリと笑えて面白い。個人的には、マイケル・ピット(好演)扮するNASAの宇宙飛行士と移民の主婦の話がベタだけど好き。マリー・トランティニャンの息子(ジャン=ルイの孫、本作監督ベンシェトリの息子)で、まだ10代のジュール・ベンシェトリが、ユペールと互角に渡り合いキラリと光る。

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