名前の映画専門家レビュー一覧

名前

直木賞作家・道尾秀介が映画のために書き下ろしたオリジナル原案を基に「ねこにみかん」の戸田彬弘監督が映画化。名前を偽り、体裁を保ちながら自堕落に生きてきた中村正男。ある日、彼を“お父さん”と呼ぶ女子高生・葉山笑子が現れ、親子のような生活が始まる。出演は「アウトレイジ 最終章」の津田寛治、「心に吹く風」の駒井蓮、「淵に立つ」の筒井真理子、「MATSUMOTO TRIBE」の松本穂香、「トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡」の勧修寺保都。脚本を「つむぐもの」の守口悠介、撮影を「淵に立つ」の根岸憲一、音楽を「トイレのピエタ」の茂野雅道が務める。2018年3月18日、『第13回大阪アジアン映画祭』にて特別招待作品部門のクロージング作品としてワールドプレミア上映。2018年6月16日よりイオンシネマ守谷にて先行公開。
  • 評論家

    上野昻志

    名前を偽り、それまでと別な場所で生きるということには、それ以前の人生から逃れるという負の要因が考えられるが、津田寬治演じる主人公には、それだけでなく、別人になること自体に喜びを感じるという姿勢が窺えるものの、その欲望のありようが、いまひとつ見えにくい。というのも、名前や職業を偽るうえでの彼の振舞いには脇の甘い、かなりいい加減な点が見受けられるからだ。その辺を詰めないと薄っぺらな人間に見えてしまうが、父を求める少女(駒井蓮)の登場で少し救われる。

  • 映画評論家

    上島春彦

    地味なタイトルで損しているが、実際これしかない。社会から存在を抹消するために様々な偽名を使いこなす中年男。そこに謎の女子高生が出現し、話が男女それぞれの二重構造に変わる。同じ時間をもう一人の側からたどり直す技法も冴え、謎の解決も二重になる、つまり二人どちらにも秘密が出来るのが面白い。彼女の所属する演劇部のエピソードは妙にしつこく違和感あり。だが、そのリハーサル戯曲が清水邦夫作品だったりするあたりが高踏的というか不思議な印象を与え、大成功。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    津田が他人の前では虚栄心を捨てられない姿を、突っ張りつつも寂寥感を漂わせて好演。ただ、それぞれの名前が冠せられた三部構成といい、ヒロインの舞台稽古や終盤の処理といい、小説や演劇ならこのまま成立するだろうが、映画の表現へと昇華されているとは思えず。終盤で作品の構造を台詞で全部説明している間、画面が説明のための待機時間にしかならない。全篇を彩る郊外の風景も、充分に映画的な風景のはずだが際立たず。〈なりすまし〉は映画に相応しい主題だけにもどかしい。

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