ヒトラーの忘れものの映画専門家レビュー一覧
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
デンマークの戦後処理の恥部というべき出来事を真っ向から描いた作品。どういう物語なのかは開始まもなく判明する。これは辛いだろうな、と覚悟したがやはり非常に辛かった。暴力や死傷をリアル過ぎるほどリアルに描写するのはデンマーク映画の特徴なんだろうか(レフンもそうだし)。しかしその結果、目を背けるべきでないことから目を背けないという真摯な倫理的姿勢が画面に宿る。主演のローラン・ムラが素晴らしい。彼の憮然とした表情の刻々の変化が希望の微かな欠片を表現している。
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映画系文筆業
奈々村久生
出色は少年兵による少女救出のシーン。何もわからず地雷原に入ってしまった近所の少女を助けるべく、少年が手前の地雷を一つ一つ取り除きながらたどり着くまでの間、逆の方向から別の少年が無謀にも地雷原に踏み込んで少女の元に寄り添い、救出までの時間を共にすごしてやる。痛ましいシーンなのに、真っ直ぐに少女の元へ歩み寄った少年の神々しさは忘れられない。実はその少年も地雷で兄を亡くしている。ラストは夢なのだろうがそれこそが映画にできる唯一の救済だ。
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TVプロデューサー
山口剛
デンマークは大戦中ドイツに侵略され、支配されていたのでナチに対する怨念は深いが、この映画は一連の反ナチ映画とは大きく異なる。デンマーク当局は地雷の撤去に捕虜のナチスの少年兵を使う。まだあどけなさの抜けない彼らに課せられた労働の非人道的な残虐さはアウシュヴィッツに匹敵する。十一人いた少年達が一人また一人と爆死してゆき最後は四人になるが、その緊迫感はすさまじい。隠された自国の恥ずべき歴史を正面から取り上げた企画が素晴らしく、少年達の演技は心に残る。
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