息の跡の映画専門家レビュー一覧

息の跡

東日本大震災で、自宅兼店舗を流された岩手県陸前高田市の種苗店経営者・佐藤貞一の姿を追ったドキュメンタリー。震災後の自宅跡地にプレハブを建て、営業を再開。全て手作りで歩みを進める佐藤は、同時に被災体験を独学の英語で綴って自費出版していた。監督は、震災後に東京から陸前高田に移り住んだ映像作家・小森はるか。本作が劇場用長編映画デビュー作となる。
  • 映画評論家

    北川れい子

    小森監督の何よりの手柄は、すでに国際人の種苗店の店主、佐藤氏に出会ったことだろう。据えっ放しのカメラの前で佐藤氏は、あれこれの仕事をこなしながら、震災のことや津波の被災体験を語る。岩手・陸前高田市のガランとした道路沿いの店。インタビュアーも兼ねている監督は、質問することがないのか、できないのか、とにかく佐藤氏のリアクションに全て丸投げ、そんな監督に佐藤氏は根気よく付き合う。個人を追うことで全体を俯瞰するのは記録映画の一つの手法だが、甘えてる気も。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    観始めはイライラした。古臭いだろうがビデオ以前のドキュメンタリーを観てきた記憶や感覚がまだ根強くあって、それとは体質の違うとにかく素材だけは沢山撮られている近年のドキュ作品の機材的有利さの裏に貼りつく無策さを強く感じたせいで。しかし観るうちに、決め打ちでないゆえに捉え得た細部の発見的感覚と、被写体である佐藤貞一氏の魅力がそれを超えた。苦難を受けた男が水の湧く場を拓くがそれはまた消える。「ケーブル・ホーグのバラード」とほぼ同じ感銘を受けた。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    日頃から独り言が多いのか、それともカメラが回っているから喋るのか? 佐藤さんはよく喋る。本作が特異なのは、ビデオカメラで家族の思い出を記録した映像のように、被写体がカメラを意識し、レンズ(監督)に向かって語りかけている点。その語りが説明となることでナレーションの類いを必要としなくなる。我々はカメラを通して被写体が喋りかけてくる姿を観察しているようだが、実は撮る側を観察している佐藤さんを見ている。この不思議な関係性が全篇を支配しているのである。

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