シークレット・オブ・モンスターの映画専門家レビュー一覧

シークレット・オブ・モンスター

ジャン=ポール・サルトルの短編小説『一指導者の幼年時代』をベースに映画化したミステリー。ヴェルサイユ条約締結直前のフランスを舞台に、アメリカからやって来た政府高官の幼い息子が、やがて狂気のモンスター“独裁者”へと変貌してしまうまでの謎に迫る。監督は、「メランコリア」「エスコバル 楽園の掟」など俳優としても活躍、本作が長編デビューとなるブラディ・コーベット。出演は「あの日の声を探して」のベレニス・ベジョ、「ニンフォマニアック」のステイシー・マーティン、「ディーン、君がいた瞬間(とき)」のロバート・パティンソン、「殺しのナンバー」のリアム・カニンガム、本作が映画デビューとなるトム・スウィート。音楽を「ポーラX」のスコット・ウォーカーが担当する。
  • 翻訳家

    篠儀直子

    鉄道の音を模してぐわんぐわんと鳴り響くスコット・ウォーカー作曲の序曲が、これから始まる映画をリアリズムのつもりで観てはいけないと告げる。エピローグ部分以前の出来事の内容を冷静に考えてみると、父親の職業の特殊さを除けば、実は結構多くの家庭で起こっている出来事であり、こんな仰々しい演出にしなくてもいいのではないかという気もしてくるが、この仰々しさこそが作品世界をぎりぎり成立させているのだから、その意味でこの監督の演出力は高く評価されるべきだろう。

  • 映画監督

    内藤誠

    孤独な少年の感受性がスコット・ウォーカーの音楽と共振して、終始、不安なままに進行する。知性も教養もあると自負する両親が一人息子を「いい子」に育てたいと考えるのだが、少年は教育など受けていない、素朴なお手伝いのおばさんになつき、両親のよかれと思う行為のすべてが気に入らない。その気持が痛いほど伝わってくるので、いまに何かが起こると観客はハラハラする。こんな少年は体験を活かして、アーチストにでもなってくれればいいと願うのだけれど、政治の道へ進んでしまう。

  • ライター

    平田裕介

    後に独裁者となった男の少年記。というわけだが、たしかに母親もエキセントリックだし、少年の言動も危なっかしくて、そうなる素地や下地みたいなものは伝わるが、独裁者道驀進を決定づけるエピソードみたいなものがないので、“癇癪子供の怒りっぱなし日記”くらいにしか感じられず。ただし、本気で美しすぎる主演少年の容姿、やたらとカッコいい音楽、なんだかデカダンスしている屋敷、そのなかを走り回る少年をどこまでも追いかけるカメラが醸し出す、独特の雰囲気には酔える。

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