雪女(2016)の映画専門家レビュー一覧
雪女(2016)
小泉八雲の『雪女』を新たな解釈の下、「マンガ肉と僕」の杉野希妃が主演・監督兼任で映画化。吹雪の夜、巳之吉は山小屋で仲間が雪女に殺される現場を目撃。1年後、巳之吉は美しい女ユキと出会って結婚。2人の娘・ウメは美しく聡明な少女に成長するが……。共演は「雨にゆれる女」の青木崇高、「相棒 劇場版IV 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断」の山口まゆ。
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映画評論家
北川れい子
8ページほどの小泉八雲の原作は、すでに50年以上も前に小林正樹監督が4話形式のオムニバス「怪談」の第2話で描いている。若い木こりは仲代達矢、雪女は岸惠子。オールセット撮影で、吹雪も森も人工的に作ったものだった。今回は雪も森も実写で、時代こそ曖昧だが、洋服姿の人物も登場する。だからか、冒頭の、雪女が山小屋に現れるくだりはともかく、それ以降は、“怪談”というよりも因縁話めき、恐怖や神秘と無縁なのが残念。いかにも低体温ふうの杉野監督の雪女はワルくないが。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
キン・フー「侠女」をリバイバルで見直した。チンルー砦の激闘ののち死体の山を見渡すグの戦慄は自分が母性の選択によって生かされた一匹の精虫にすぎないと気づいたためで、雪女の夫となる巳之吉も物語の最後には同じものを感じたろう。「侠女」の元ネタ『聊斎志異』と日本の雪女伝承に直接の関係はないが、キム・ギドク映画に出演しリム・カーワイ映画でキム・コッピと共演、ヤスミン・アフマドと交流を持っていた杉野希妃が探り当て、企んだアジア的な女の魔と慈愛が本作だ。
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映画評論家
松崎健夫
監督・主演をこなす女優は、古今東西その例が少ない。そのひとりである杉野希妃は、既存の芸能システムにあえて背を向け、自らの映画キャリアを己の才覚で切り開いてきたという点でも特異な存在。本作では、その周囲とは異なる〈異質なもの〉としても雪女を描いている。“あちらとこちら”を暗喩させる劇中の川は三途の川のよう。当初から国際的視点を意識して製作され、伝承民話の世界に現代的な解釈を取り入れているからか、雪女の姿はどこか移民や難民の問題とも重なるのである。
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