The NET 網に囚われた男の映画専門家レビュー一覧

The NET 網に囚われた男

「殺されたミンジュ」のキム・ギドクによる社会派ヒューマンドラマ。北朝鮮の漁師ナム・チョルは、ボートの故障で韓国側に流されてしまう。韓国の警察に拘束されたチョルは、スパイ容疑で残忍な尋問を受ける。しかし、チョルの監視役ジヌは彼の潔白を信じていた。出演は、「ベルリンファイル」のリュ・スンボム、ドラマ『チアアップ!』のイ・ウォングン、「殺されたミンジュ」のキム・ヨンミン、ドラマ『ミセン-未生-』のチェ・グィファ、「メビウス」のイ・ウヌ。第73回ヴェネチア国際映画祭ネルジャルディーノ部門正式出品、第41回トロント国際映画祭正式出品、第17回東京フィルメックスオープニング作品。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    キム・ギドク監督って、ものすごく個性的ではあるけれど、どうして国際的な評価があれほど高いのか、いまいちよくわからないところもある。故意に素人臭く撮っているような映像も、ここ一番の奇怪なケレン味も、大体映画の後半に訪れる濃厚に観念的な展開も、僕は好きだけど「???」となるのが普通なんじゃないかと。この作品も、同じストーリーを別の監督が撮ったら絶対こうならないだろう。アクチュアルでシリアスな政治的主題を真っ向から扱いつつ、これは一篇の寓話でもある。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    理不尽としか言いようのない話だが、誰が悪いという撮り方はしていない。北にも南にも、さらにその内部でも、それぞれにはそれぞれの生きてきた立場があり、皆それぞれに自分の立場を全うしようとしているだけなのだ。「ベルリンファイル」でも北側の人間を演じたリュ・スンボムは訛りのある喋り方も味があっていい。見たことを喋らないために目を固く閉じるような彼が送還を望むのは家族のためだが、一方でその家族の存在が彼の致命傷にもなってしまう。結末が惜しい。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    北朝鮮の素朴な漁師が舟の故障で韓国へ流れ着き、スパイ容疑で過酷な取り調べを受け、命からがら祖国へ帰ると今度は南のスパイではないかと疑われる。カフカ的な寓話かコメディのような話だがこれが全く現実であると訴えているのがこの映画だ。北の独裁と貧困、南の資本主義的退廃に対する批判、両国に共通する官僚制度の恐ろしさ、個人を抹殺する国家の存在への怒り、キム・ギドク監督が本作に込めた思いは単純直截であるだけに力強い。隣国の話として安閑としてはいられない。

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