トッド・ソロンズの子犬物語の映画専門家レビュー一覧
トッド・ソロンズの子犬物語
アメリカン・インディペンデント界の鬼才トッド・ソロンズ監督によるヒューマン・コメディ。アメリカ中を彷徨う1匹のダックスフントが出会う崖っぷちの映画学校講師兼脚本家や偏屈な老女など、悲惨ながらもおかしみのある人生を送る飼い主たちの姿を映し出す。出演は「バットマン リターンズ」のダニー・デヴィート、「アリスの恋」のエレン・バースティン、「ビフォア・ミッドナイト」のジュリー・デルピー、「フランシス・ハ」のグレタ・ガーウィグ、「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」のキーラン・カルキン。
-
映像演出、映画評論
荻野洋一
タイトルとは裏腹に心温まる愛犬物語とまるで無縁なのはソロンズらしい。世界に対するシニカルな視線を、ダックスフントの流転と共に提示。ユーモアたっぷりだが傍若無人、苦渋に満ちている。D・デヴィート演じる映画学科の教授は、卒業生のトークショーで侮辱を受ける。この痛苦に耐えられる観客はいまい。悔恨、不寛容、孤立無援が渦巻く中を一匹の犬が通り過ぎていく。彼の長い茶色の胴体は、名前の「糞」(ドゥーディ)であると同時に、流転の横移動を体現するスクリーン(絵巻)でもある。
-
脚本家
北里宇一郎
いやあ相変わらず、すっとぼけて、笑いがこわばるソロンズ・タッチ。アメリカ映画では脇の、そのまた隅っこにいるような人たちを描いて。今回はダックスフントがつなぐ人間模様。そこに皮肉とおかしみと哀れが込められ。でも、ラストのグシャリは悪趣味だなあ(これは見てのお楽しみ?)。全体、胸に沁みるところまで行かなくて、やたら苦みだけが口に残る。それがこの監督の持ち味なんだろうけど、どうも人間観というか世界が窮屈に思えて。各挿話をつなぐアニメと歌は楽しめたけど。
-
映画ライター
中西愛子
1匹のダックスフントと、この犬が行く先々で出会う飼い主たち。それぞれの風景を切り取った4つの物語が、シュールな笑いの中に浮かび上がる。斜めから物事を見つめながら、人のダメダメさを、ちょっと嫌らしくドライに、でも決して突き放したりせず、根底に愛をもって描くトッド・ソロンズのスタイルは相変わらずだ。でも、今回どこかノレなかったのは、こちらの感性が古びたからか。中盤に挿入される、物語をつなぐ休憩タイムはいらなかったのでは? 1本の線が途切れてしまう。
1 -
3件表示/全3件