羊と鋼の森の映画専門家レビュー一覧

羊と鋼の森

第13回本屋大賞を受賞した宮下奈都の同名小説を原作に「orange -オレンジ-」の橋本光二郎監督が映画化。高校生の時、ピアノ調律師・板鳥と出会い、念願の調律師として働き始める外村。恩師や先輩、双子の姉妹に囲まれながら、外村はひたすら音と向き合ってゆく。新米調律師の外村直樹を「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」の山﨑賢人、外村が憧れる調律師・板鳥宗一郎を「葛城事件」の三浦友和、外村の先輩・柳を「忍びの国」の鈴木亮平、ピアニストの高校生姉妹・和音と由仁を実の姉妹である「ちはやふる」の上白石萌音と、「ハルチカ」の上白石萌歌が演じる。脚本は「高台家の人々」の金子ありさ。音楽を「リバーズ・エッジ」の世武裕子が務める。
  • 評論家

    上野昻志

    ピアノの調律の仕方を具体的に見せたのはいい。ただ、最初に三浦友和が、学校のピアノを調律するときとか、山??賢人が、両親を亡くして引きこもっている男のピアノを調律するとき、ピアノに当たる光が暗すぎるのが気になる。画面効果を狙った照明だろうが、あんなに暗くては調律の手許が狂うのではないかと心配になる。物語のベースが、ピアノの調律に目覚めた少年の成長譚にあるのは承知しているが、森を写したショットといい、ムード優先の画調が、本筋とずれているのではないか。

  • 映画評論家

    上島春彦

    詩的なタイトルはピアノのことだが、森という言葉にさらに含蓄あり。その意味は映画を見て御確認下さい。新人調律師の物語で、主人公がこの仕事を志すきっかけになる体育館の場面の音響効果は良い。ただキャラの設定は甘い。先輩光石研がいつの間にかいい人になっちゃうのも妙だし、三浦友和が何故業界で評価されているのか説明がない。でもピアニスト姉妹の対照的な性格に知らず知らずのうちに振り回されるシチュエーションが良く、この部分をもっと押しても良かったのではないか。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    ピアノ調律師の話で北国を舞台に季節をまたぎつつ音と自然が一体化して描かれるとなると、偏愛する佐々木昭一郎の「四季・ユートピアノ」が浮かんでしまう。調律師の耳に響く音の世界を圧倒的な映像詩で描いた前例と比較すれば、本作の主人公は音に鈍感で繊細さの欠片もない。調律に失敗する挿話も単発的で引きずることもなければ葛藤も生じさせない。主人公が先輩の言葉に一々メモを取り、同じ話を復唱させて書く憶えの悪さが象徴するように受け身だけの人物で魅力が薄い。

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