わすれな草(2013)の映画専門家レビュー一覧
わすれな草(2013)
監督自身の体験を軸に綴られるドイツ発のドキュメンタリー。認知症を発症した妻と彼女を支える夫、そして彼らの子供である監督や姉たち。認知症介護についてそれぞれが悩みながらも、それを契機に夫婦や家族の絆を強めていく様子を愛とユーモアを交え映し出す。監督は、本作が長編第2作目となるダーヴィット・ジーヴェキング。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
日本の「エンディングノート」同様、映画作家が自分の親の病を記録していけば、一世一代の愛と死のドキュメンタリーができ上がる。ドイツ中部フランクフルト郊外の一軒家に私たち観客もしばし滞在し、アルツハイマー病を発症した母の看護のために帰郷した映画作家のかたわらに身を寄せることになる。固有の死生観、夫婦観が炙り出される。興味深いのは、母がかつては左翼運動の闘士で、若者が歴史の表舞台に立っていた時代をリードしていた点だ。怒れる若者にも老いは訪れる。
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脚本家
北里宇一郎
日本の家族介護ドキュメンタリーのほとんどが、いまそこにいる肉親の記録。このドイツの監督も、認知症の母親をキャメラで追う。違うのは母親の過去を刻んでいること。政治活動やフリーセックスの青春時代を。かつてのみずみずしい姿を知っている監督は、今の母親をなかなか受け止められない。しかし自由を求めた彼女は、認知症となって、すべてのしがらみから解放されたように見える。そう、母親は他者として生まれ変わったのだ。新たな家族関係の葛藤と出発が描かれて。なかなか。
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映画ライター
中西愛子
認知症になった妻を長年ひとりで介護してきた夫。息子ダーヴェッドは実家に帰り、父に代わって母の世話をしながら彼女の最期の時間を映像に記録する。この両親は、若い頃、政治活動もしていた左派の知識人で、互いの浮気を許し合う個人主義的な考えを徹底していた。息子である監督は、母の認知症が、母と父、母と子どもたちの愛情の通わせ方に変化をもたらし、家族としてより親密になっていく様子をとらえる。ドイツ映画。夫婦像も含め、こうした介護ドキュメンタリーは珍しいと思う。
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