ミッドナイト・バスの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
原作を知らなかったので、観る前は勝手に、長距離深夜バスを利用する人たちの群像劇ではと思っていた。ワケありカップルに家出に帰省、妊婦も乗っていたりして、社会の縮図的なエピソードが次々――。が、全く大違い。深夜バスに乗り込む客のことなど一切無視、バツイチ運転手を軸としたウチウチの話が、?んで含めるように時間をかけて描かれ、元妻に息子と娘、さらに恋人や義父らがあーだ、こーだ。全部引き受けようとする主人公の誠実さがメインだが、どうにもこの“バス”には乗れん。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
原田泰造がここまでの存在感を持つのを見ると、現代日本で生活感のある普通の中年男を体現できる役者がいかに払底しているかがわかる。変態か異様な美中年ばかり。案外現実でも、自意識少なく、安定した職能者で、ただ穏やかに傍らに居るだけの男はモテる。大型バスのハンドルをさばく原田にジュンとくるのは小西真奈美だけではない。だが後半はモテすぎた男のズルさか、主人公も映画も弛緩し、ボロが出た感。とはいえ生活の重みと、漂う中年エロス臭は、妙に雄弁に何かを語る。
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映画評論家
松崎健夫
バス運転手として東京と新潟の間を往来する主人公は、同時に、ふたりの女性の間も往来している。“渡り鳥”である白鳥は、その姿を象徴するように見える。劇中「白鳥は家族で渡る」という台詞がある。東京ではひとりの男として存在し、新潟では父親として存在する主人公の二重生活は“渡り鳥”が皮肉っている。この二つの土地の違いを表現しているのは、各々の実景だけではない。鳥や風の音はもちろん、駅のホームや交差点などの交通量の違いが生む音によっても表現されているのだ。
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