漫画誕生の映画専門家レビュー一覧

漫画誕生

日本初の職業漫画家であり現在の漫画業界の礎を築いた北沢楽天の歩みを追った伝記ドラマ。楽天は福沢諭吉に見出され一躍時代の寵児に。それまで蔑まれていた風刺絵を漫画という一つのジャンルとして広く浸透させるが、やがて黒く強大な時代の波が押し寄せる。監督は「花火思想」の大木萠。現在の漫画のルーツといわれながらも歴史に埋もれてしまった幻の漫画家・北沢楽天を「沈黙-サイレンス-」のイッセー尾形が、楽天の妻いのをデザイナーとしても活動する篠原ともえが演じる。本作は、北沢楽天生誕140周年およびさいたま市立漫画会館開館50周年を記念し企画された。第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門出品作品。
  • 映画評論家

    川口敦子

    重箱の隅をつつくようで嫌だが、いくら進取の気性に富み夫に合流しようと40代半ば、単身シベリア鉄道でパリを目指すようなお転婆もしたとはいえ、明治時代に東京麹町の商家に生まれ女学校を出て敬虔なクリスチャンでもあった女性が、家庭でこんなふうに媚態を纏っているだろうか? 昨今の着付け教室仕込みの窮屈そうな着方とは違うとしても往時の和装、ここまでぞろりとしていたか? 等々、本筋でない所で鼻白むと映画を愉しめない。リアリズムでない意匠の映画だとしても――。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    いまどき珍しいほど観客の教養を信頼したシナリオが快い。北沢楽天ほか実在の人物への敬意を示しつつ、事実に足をとられない自由闊達さで物語を紡ぎ、現在へつないでみせる手つきの自然さ、いやみのなさ。大木萠監督の正攻法の演出、高間賢治の安定した撮影がそれを透明度の高い映像に昇華している。いいね、シブいね、と拍手を送りたくなった。終始飄々としたイッセー尾形、篠原ともえに対して、重の演技で要所を締める唐組の看板役者・稲荷卓央の存在感にも唸った。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    ラストの、帽子が飛ぶショット。惜しくも決まりそこなっている。同様に、そこまでも、狙いありでも半端になったり、そもそも歴史への態度が曖昧だったりするところがある。とくに戦争期の人と社会へのつかみが甘い。思い切った見せ方の試みも空振り気味。イッセー尾形の楽天は、起伏を生きぬいてきたと感じさせるが、橋爪遼の演じる青年期との連絡は希薄だ。楽天だけでなく、それぞれに未来をもつ漫画家の群像に対する大木監督の表現者としての思い、もっと出してよかった気がする。

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