しあわせな人生の選択の映画専門家レビュー一覧
しあわせな人生の選択
末期がんに侵された男性と周囲の者たちとの最期の日々を追い、スペインのゴヤ賞で作品賞はじめ5冠に輝いたドラマ。スペイン在住の友人フリアンを訪ねたトマス。フリアンは余命いくばくもなく、愛犬トルーマンの新しい飼い主探しなど彼の死に支度に付き合う。セスク・ゲイ監督は自身の母親の闘病生活での体験をもとに本作を制作。死期の迫るフリアンを「人生スイッチ」のリカルド・ダリンが、彼に寄り添う友人トマスを「アイム・ソー・エキサイテッド!」のハビエル・カマラが演じる。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
末期ガンのスペイン俳優の終活を辿る悲喜こもごもの始末記で、オーソドックスな作りの中に人間讃歌が滲み、またその滲み具合に気品が漂う。愛犬の里親探しやら、昔寝た女優の夫への謝罪やら、ありきたりなシーンの積み重ねなのに、シーンに込めたユーモアの甘味も、涙を誘う塩っ気も絶妙である。セスク・ゲイ監督は名シェフなのだろう。カタルーニャ出身の彼にとって、マドリードはあまり気乗りのしないアウェーの地だったかもしれないが、心をこめて街を魅力的に切り抜いている。
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脚本家
北里宇一郎
久しぶりの“男”の映画で。それもアクションとかノワールとかヤクザじゃなくて、難病ものというのが意外。余命いくばくもない男がいて、それを知らされた友人が駆けつける。その二人の淡々のやりとり。泣かない喚かない口に出さない。だけど互いの想いが、視線や言葉の端々でひしひしと伝わって。男の飼っている老犬がよきアクセントになり、さらに男の息子、別れた妻が絡む。その一つ一つがさらりとしてるのにジンときたりニヤリとしたり。“男”という生きもの、その繊細さの映画。
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映画ライター
中西愛子
深刻な病を宣告され、これ以上治療をすることを止めた初老の役者。そこへ古い友人が現れ、考えを改めるように説得しながらも、彼の身辺整理の数日間に寄り添う。尊厳死に近いテーマが横たわるが、映画全体がマドリードの街の喧騒に包まれていて、彼らの交わす死についての会話が、観念的でなく、日常風景の中に溶け込んだ味わいで描かれる。生活感のディテールがとても面白い。それにしても大人な映画。死に向き合うことは、悲しく恐ろしくもあるが、人間を深めるのかもしれない。
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