クロス(2017)の映画専門家レビュー一覧
クロス(2017)
宍戸英紀による第39回城戸賞受賞作を映画化。あるジャーナリストによって白日の下に晒された集団リンチ殺人事件。その犯人グループの一人であった知佳の夫・孝史は、愛する人の妻を殺めてしまった過去に苦悩しながらも歯科医院の受付として働く真理子と出会う。出演は「娚(おとこ)の一生」の紺野千春、「恋人たち」の山中聡、「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」のちすん、「赤々煉恋」の秋本奈緒美。監督は「その男、凶暴につき」「うなぎ」など数々の作品をプロデュースしてきた奥山和由と、「蝉しぐれ」「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」などの撮影を手がけ、本作でも撮影を兼任する釘宮慎治。2017年4月21日「島でぜんぶおーきな祭 第9回沖縄国際映画祭」にてワールドプレミア上映。
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映画評論家
北川れい子
山椒は小粒でもぴりりと辛い、という格言をもじって言えば、「クロス」は小品でもかなり辛い――。映画化の過程で、城戸賞の脚本がどう変わったか気になるところだが、チラシの〈愛、嫉妬、快楽、罪、欲望の十字架から逃れられない〉というコピーよりも、因果は巡るふうな印象が強く、サスペンス的な演出がいくつも。主要人物は3人で、背景には血腥い事件が2つ。優柔不断でストーカー的な夫のキャラには困ったが、女2人の罪と罰の引き受け方の違いが面白い。冒頭の字幕は無用では。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
本作のチラシに脚本家掛札昌裕氏がコメントを寄せていて誉めている。つい最近まで私はバイト先の映画館で何本かの掛札脚本映画を繰り返し上映していたため、ついそれらと本作を比較した。特に女性の犯罪実録ということがウリであった「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」の阿部定パートを思い浮かべた。その想起は本作への物足りなさを強めた。一体何が違うのか。「猟奇女犯罪史」ではモノローグによって、映画は平然とキャラクターの内面を語った。あの恐るべき大胆さだろうか。
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映画評論家
松崎健夫
かつて反社会的行為に関与したふたりの女性の社会復帰を阻むものが、近親憎悪であると描いた本作。秀逸なのは低予算を逆手に取った(本来は撮影者である)釘宮慎治監督による撮影。クロースアップを多用しつつ、逆光やスモークによって単調になりがちな画面内情報量を増幅させている。また、斎藤工の演じるフリージャーナリストは小さな役だが、歪さを感じさせる役作りが光る。一方で、必要以上に繰り返されるフェードアウトにより、感情の持続力を途切れさせている点が惜しまれる。
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