彼女の人生は間違いじゃないの映画専門家レビュー一覧

彼女の人生は間違いじゃない

「PとJK」の廣木隆一監督が、震災から5年後の故郷・福島を舞台にした自身の処女小説を映画化。仮設住宅で父と暮らすみゆきは、市役所勤務の傍ら、週末になると高速バスで上京し渋谷でデリヘルのアルバイトをしていた。行き場のない彼女が見た光とは……。みゆき役の「日本で一番悪い奴ら」の瀧内公美ほか、廣木監督の「軽蔑」に主演した高良健吾、名バイプレイヤーの光石研らが、行き詰まった思いを抱えもがく人々を演じる。
  • 映画評論家

    北川れい子

    現実から逃れられないのなら、せめて週末だけでも別の現実に身を置けばいい。福島の役所仕事と、渋谷でのデリヘル嬢。自分で課した自虐的な制裁。あるいは暗い優越感? もう2年目。すっかりプロ。かつて、デリヘルに向いてないと言われたとき、やらなきゃダメなんです、と泣いて頼み込んだのだった。ダメって何が……。仮設で暮らす隣人たちや役所の同僚のエピソードなどと比べると、主人公の生き方は独り善がりのゲームのようでナットクしかねるが、でも軸足が福島なのはいい。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    「海辺の町で」「さよなら歌舞伎町」、そして本作は、同時代的に見渡しても現在の出来事のうちの何ものかが歴史に変わるなかでの記録的な意味のある劇映画、未来への瓶詰めの手紙のような作品に見える。なぜ震災津波被害者の女性がデリヘル嬢になるのか。自罰か服喪か。ともかく彼女はこうだと描かれる。瀧内公美、良い。柄本時生がバイトホステスの女子大生と仲良くしたいのに聞き込まれてげんなりする場面もよかった。監督が会い、見聞きした、実在する彼ら彼女らの姿が刻まれた。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    一国の首相が自身の妻を責め立てられたことに憤慨し、家族を守ろうとする。その気持ちを他人に置き換えられるような心を彼が持っているならば、市井の人々もまた家族を守ろうとする気持ちを汲めるようになるのではないか? と本作は思わせる。デリヘル従業員は「あんただけ特別じゃない、自惚れるな。仕事だから守るんだ」とヒロインに言い放つ。この言葉は〈日本〉という国のあり方を問うているようにも聞こえる。それゆえヒロインの纏う赤は決意を物語り、薔薇は誇りを物語るのだ。

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