春の夢の映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
中国の延辺朝鮮族自治州から女がソウルの場末に流れてきて、居酒屋を営む。その店は透明なビニールで囲っただけのもの。一時的に風雨を凌げても、外界から完全に守られてはいない。本作は、庶民の生とはこのビニールハウスのごとき頼りなげなものだと言外に語る。女主人と脱北者1名を含む常連客3人組は、友だち以上恋人未満の幻想共同体を構築する。軍政独裁期に活躍した李長鎬の作品、とりわけ「風吹く良き日」「馬鹿宣言」の下層民の鬱屈を思い出させ、深い情感を醸し出す。
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脚本家
北里宇一郎
中国からの朝鮮族とか、脱北者が主人公というのが目新しい。繁栄の反対側にある街で、彼らグータラ三人男が飲み屋の姐御をめぐって恋のさやあて合戦。なんてお話はどうでもいいくらい、ただただ男たちと彼女がぶらぶら遊んでいる様が綴られる。こちらものんびり気分になって。いずれも本業映画監督の三人の脱力おトボケ演技が魅力的。脇のバイク少女、ニセ認知症の父がよき調味料となって。急転直下の終幕は、この映画そのものが一場の“夢”だったと思わせる。捨てがたい魅力が――。
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映画ライター
中西愛子
ヤン・イクチュンはじめ、本職は映画監督の男たち3人が俳優として出演。行きつけの呑み屋のマドンナ的存在の女性と中年男たちの、うだうだとした日々がモノクロームで映し出される。男女の関係性が見つめられているけど、(本作監督同世代の)ホン・サンスよりいい意味でさっぱりしていて、仏ヌーヴェルヴァーグ風の青春おふざけ感が楽しく、儚げな手触りも心地よい。ノスタルジックな味わいが、じわじわと身に沁みてくる。ヒロイン役の女優ハン・イェリが、何とも魅力的だ。
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