散り椿の映画専門家レビュー一覧
散り椿
黒澤組出身の名キャメラマン木村大作が、直木賞作家・葉室麟の同名時代小説を原作に岡田准一主演で映画化した監督3作目。時の権力に負け、藩を追放された瓜生新兵衛。亡き妻・篠の最期の約束を叶えるために故郷に戻った新兵衛は、藩の不正事件の真相を探る。脚本は「雨あがる」「蜩の記」の監督を務めた小泉堯史。共演は「クリーピー 偽りの隣人」の西島秀俊、「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の池松壮亮、「64 ロクヨン」の緒形直人、「犬猿」の新井浩文、「ディストラクション・ベイビーズ」の柳楽優弥、「心が叫びたがってるんだ。」の芳根京子、「俳優 亀岡拓次」の麻生久美子、「孤狼の血」の石橋蓮司、「舞妓はレディ」の富司純子、「棒の哀しみ」の奥田瑛二。音楽は「最後の忠臣蔵」「蜩の記」の加古隆。2018年、第42回モントリオール世界映画祭で最高賞に次ぐ審査員特別グランプリを受賞。
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映画評論家
北川れい子
オールロケーションの美しい映像と、映りのいい人物配置や動きを先行させた画面設計が、逆に物語を小粒化しているのがもったいない。とにかくすべてが映像優先、人物やドラマは映像の引き立て役のような扱いで、いくつかある斬り合いの場面も舞踊の振付のよう。どこかにはみ出したような躍動感がほしかった。小泉尭史の脚本も説明台詞が目立ち、固有名詞の連続も誰が誰やら。登場人物が多いわけでもないのに。奥田瑛二の一人悪役も実に安易。あ、でも岡田准一と黒木華の姿勢はいい。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
もう何度かある種の映画好きどうしでその話はしてる。谷垣健治あるいは下村勇二コーディネートの岡田准一VS佐藤健。それが二十一世紀版「無敵のゴッドファーザー ドラゴン世界を征く」の倉田保昭VSブルース・リャン、「殺破狼」のウー・ジンVSドニー・イェン的な達成をしないか、と。本作の岡田氏の動きが久世竜=三船の“三十郎”殺陣より「将軍家光の乱心 激突」における千葉ちゃんに近かったのは大きな一歩だ。いや、そもそも女性の描写とか、トータルにいい映画だ、本作。
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映画評論家
松崎健夫
正しい行いが、必ずしも人を幸せにするとは限らないという不条理。そんな厳しい現実に左右されることなく四季は巡る。雪が舞い、風が吹き、陽炎燃え、紅葉する山々。そして、冬から春にかけて花期を迎える椿の花。本作は、現代人が何処かに置き忘れてきた「己のためではない美徳」が描かれている。その美意識は、構図における人物配置によって視覚的にも訴求。流布された噂を信じがちな傾向を「今も昔も同じだ」と描くことで、時代劇の体を借りながら現代社会を批判してみせている。
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