笑う故郷の映画専門家レビュー一覧
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批評家。音楽レーベルHEADZ主宰
佐々木敦
ノーベル文学賞を受賞したことを自らの文学の衰退の証だとして苦悩するスペイン在住の作家は、その後も各国からの依頼や招聘をフリ続けていたが、アルゼンチンの故郷の町サラスから名誉市民を贈りたいと連絡を受けると、何故か帰ってみる気になる。彼の小説はサラスを舞台にしているのに、四十年一度も帰っていなかったのだ。実は喜劇だったとわかってからの展開が素晴らしい。細かいくすぐりも満載だし、一見素朴な映像タッチも効果的。アメリカ映画にも日本映画にも無いセンス。
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映画系文筆業
奈々村久生
故郷に残った者と出て行った者との埋め難い断絶をブラックユーモアとして描く。そのアイディアのパンチ力ゆえに出落ち感が強く、徐々に追い詰められていく主人公の心情や村人とのやり取り、閉鎖的な田舎町の描写などの掘り下げがもの足りなく感じてしまう。作風は監督コンビの前作を踏襲しているが、舞台が広がった分、演出力の弱さが露呈した結果に。シュールな線がスリルを奪い、悪夢としてはぬるく、手持ちカメラの不安定な画はオフビートにしてはウェットすぎる。
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TVプロデューサー
山口剛
主人公はノーベル文学賞を受けた小説家であるが、文芸映画とは対極のブラックユーモアをたたえたオフビートな映画だ。講演旅行で出かけた久しく離れていた故郷で過ごす悪夢の日々。旧知の仲間の温かい歓待がいつしか違和感、脅迫感となり、やがて絶望的な恐怖へと変わってゆく様が手に汗を握らせる。主人公の言動は矛盾に満ち首肯し難いところもあるがそこが人間的で説得力を持つとも言える。アメリカ南部作家の描くローカルカラーや不条理な笑いに満ちた小説世界に通じるものを感じた。
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