フジコ・ヘミングの時間の映画専門家レビュー一覧

フジコ・ヘミングの時間

ピアニストのフジコ・ヘミングの軌跡からプライベートまで密着した初のドキュメンタリー。スウェーデン人の父との別離、母からの厳しいレッスン、ハーフへの差別、貧しい留学生活、聴力の喪失など苦難を乗り越え、夢を諦めなかった彼女の人間性と音楽に迫る。監督は、様々なミュージシャンのMVやドキュメンタリーを手掛ける小松莊一良。
  • 映画評論家

    北川れい子

    こう言っては何だが、ピアニスト、フジコ・ヘミングへの世間の評価や関心は、その演奏技術より、彼女自身のキャラクターやドラマチックな半生に対する興味の方が強いらしい。その証拠がこのドキュメンタリーで、ほとんど彼女のキャラと言葉を鵜呑みにしてカメラを回しているだけ。たまにはツッコメよ。演奏シーンにしても、ただ写しているだけ。取材対象に最初から降参して、パリの街を犬とお散歩する彼女の姿を何度も撮って、で、だから? フジコ女史に関心のある人にはいいかも。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    期せずして訪れた成功に驕るよりも皮肉な微笑みで対している彼女を観てこのひと相当地獄のなかで生きてきたなと思う。本作ではその生活の優雅な部分の代償である苛烈さも撮られていた。鍵盤を叩き続けてきた農婦のような手。好きな男性があるがこんな老婆がそんな想いを抱いているなんてと自嘲。彼女と家族を日本に捨て置いたスウェーデン人の父がデザインしたポスターを見て、まあこんなものを作れたんだから彼も悪いだけの人間じゃなかったかなと言う。濃厚な芸術家の肖像。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    音楽でも言葉でもなくフジコ・ヘミングの何気ない仕草が、彼女の人柄を感じさせている。例えば、小銭を出す姿や店先の鉢植えから落ちた花を鉢に戻してやる姿、あるいは、舗道を父親と歩き嬉しそうにはしゃぐ子どもに向ける眼差し。「人生とは時間をかけて私を愛する旅」と自身を語る、彼女の過去と現在とを並列させることで生まれるモンタージュ。それに加えて、何気ないインサート映像を挟むことによって、本作はフジコ・ヘミングの人柄を浮かび上がらせようと試みているのである。

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