ポルトの映画専門家レビュー一覧

ポルト

ポルトガル第二の都市ポルトを舞台に、孤独な男女の姿を過去と未来を交錯させながら描出するラブストーリー。家族に追放された26歳のアメリカ人ジェイクと、32歳のフランス人留学生マティ。気楽に結んだたった一夜の関係が、二人の人生を大きく変えていく……。出演は「スター・トレック」シリーズのアントン・イェルチン、『フランス絶景ミステリー コレクション レ島』のルシー・ルーカス、「めぐりあう日」のフランソワーズ・ルブラン。監督・脚本は、本作が初の長編劇映画となるブラジル出身のゲイブ・クリンガー。共同脚本は「ストリート・オブ・ファイヤー」「トゥルー・クライム」のラリー・グロス。製作総指揮を「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」のジム・ジャームッシュが手がける。
  • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

    佐々木敦

    舞台はポルトガルのポルトだが、これはいわば多国籍=無国籍映画だ。主演の故・アントン・イェルチンはソ連(当時)出身のアメリカ俳優、ヒロインのルシー・ルーカスはフランス人、監督ゲイブ・クリンガーはブラジル出身でアメリカ在住。これは異国情緒を描いた作品ではない。どこにも属せないのに、どこかに居るしかない人間を描いた作品だ。時々、ナイーヴなまでにあからさまに映画狂的な映像表現が個人的にはうるさく感じたが、全体としては好ましい雰囲気の映画だと思った。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    芸術において繊細さは不可欠なのだろうが、それだけでは他者の鑑賞や消費に耐えうるものにはならない。現世で社会的に価値が認められている作品はそのバランスが優れているのだろう。これは人にも当てはまる。繊細すぎる感性は実社会で生きることを困難にする。異国で育ち、定職もなく、人間関係の希薄なジェイクは、夢見がちなところがキュートでもあるがナイーブすぎる危うさがつきまとう(本作そのものにも)。演じたイェルチンの実人生がそれを物語っているようで切ない。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    ポルトを舞台に異国を彷徨う男女の一夜の出会いを映像技術を駆使して描く美しい映画だ。因果関係や周囲の事情など夾雑物を排し、ひたすら二人の心理、官能に迫っていく。監督は批評、ドキュメンタリーから出発した34歳のデビュー作、というと「恋人たち」のルイ・マルを彷彿せざるを得ない。スーパー8、16ミリ、35ミリを巧みに使いわけているのも緻密な計算に基づいていることがわかる。27歳で世を去ったアントン・イェルチンのスターらしからぬ風貌、演技も強く心に残る。

1 - 3件表示/全3件