獄友の映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
明るい笑い声が、ひときわ印象深い。冤罪で、短い人でも17年6カ月、長い人は48年、獄中に閉じ込められていた人たちが、かくも明るく笑っている姿に、思わずこちらも微笑みたくなる。だが、それだけの時間を獄に繋がれている自分を想像したとき、慄然とする。差別意識と思い込みで自白を強要した警察と、それを追認した検察、裁判所に対し、沸々と怒りが湧いてくる。そんな怒りや絶望も、彼らは獄友を得ることで乗り越え、いまの笑いがあるのだろう。彼らには一日も長く生きてほしい。
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映画評論家
上島春彦
タイトルは冤罪で長年月にわたって囚われながらも、何とか社会復帰を果たした五人の絆を指す。私の世代には狭山事件裁判への思い入れが特に強い。しかし本作で最も強烈なキャラクターは袴田氏である。この人の言語能力には独特なものがあり、ちらっと出てくる彼のノートに見られる造字が凄い。巖という漢字を基に新たな漢字が作られ、延々と綴られているのが見所。ただし彼は明らかに刑務所で神経を病んでおり、それが露呈する会見の場面は恐ろしい。ラストに引用される文言も良い。
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映画評論家
吉田伊知郎
フィクションなら冤罪で刑に服した男たちが集まって裁判官への復讐を企てるところだが、現実の彼らは旧交を温めて懐かしく獄中時代を語り合う。倒錯的な光景にも思えるが、生涯の大部分をそこで過ごしただけに出所した刑務所の矯正展に懐かしそうに出向くのも、無実だからこそ純粋に回顧の念を催させた行動なのだろう。「ショージとタカオ」のその後も描かれるが、袴田さんの顔の変化に代表される彼らの顔を正視する視点が際立つ。まるで顔を見れば分かると言っているかのようだ。
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