軍中楽園の映画専門家レビュー一覧
-
ライター
石村加奈
誤解を恐れず書けば、歴史的背景にウェイトを置かずとも、過ぎ去ったものへの郷愁に身悶えせずにはいられない、普遍的な青春映画として成立している。「若気の過ち」という言葉がぴったりな主人公が、金門島での兵役中に出会った「約束とは自分とするもの」とクールなヒロインと体を張って対峙することで、勘違いをし、背伸びをしながら、大人になっていく。蛍が舞う幻想的な夜、初めて手を取り合って駆けた、二人の笑顔。エンドロールのモノクロ写真に写る希望。はかないがきれいだ。
-
映像演出、映画評論
荻野洋一
「特約茶室」、党公認の従軍慰安所。90年まで実在したそうだ。ここにたむろする慰安婦たち、兵隊たちの欲望、孤独、悲しみ。この抒情がややウェットに流れる。女性やマイノリティの人権主張の環境がようやく整いつつある現代社会において、本作の抒情はアナクロニズムかもしれない。しかし本作の主眼はこの「楽園」を現在の視点から断罪することにはない。悲運にあえぐ人間たちの嘆き、もがきに寄り添っていく。「風櫃の少年」の少年が長じてこんなに厳しく優しい映画を作った。
-
脚本家
北里宇一郎
69年の金門島が背景。しかも娼館が舞台。中国からの砲撃はあっても、どこか慣れ合いの戦場というところが面白く。ただ兵士と女たちの色模様というか恋愛ドラマの趣向は、日本でもふんだんに作られていた赤線ものとさほど変わり映えがしなくて、おやおやまたかいなという想いが。とはいえ、若い兵士と娼婦が泳いで脱出というところには中国との距離の近さを感じ。外省人の中年軍人が故郷にいつかは帰りたいという心情には、台湾という国の特殊な事情がうかがえて、ほろり胸を打たれた。
1 -
3件表示/全3件