生きてるだけで、愛。の映画専門家レビュー一覧
生きてるだけで、愛。
数々の企業CMやMVを手がけてきた関根光才監督が、本谷有希子の同名小説を映画化。過眠症で引きこもり気味の寧子は、ゴシップ雑誌の編集部に勤める津奈木の部屋で同棲中。ある日、津奈木とヨリを戻したい元恋人・安堂が現れ、寧子を部屋から追い出そうとする。出演は「勝手にふるえてろ」の趣里、「あゝ荒野」の菅田将暉、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の田中哲司、石橋静河、「友罪」の西田尚美、「検察側の罪人」の松重豊、「STAR SAND 星砂物語」の織田梨沙、「土竜の唄」シリーズの仲里依紗。撮影を「I'M FLASH!」の重森豊太郎、音楽を「羊と鋼の森」の世武裕子が務める。
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映画評論家
北川れい子
以前、大林宣彦監督が「他人ごとの話が自分ごとになるのが映画の素晴らしいところだ」と語るのを耳にしたことがあるが、この作品の趣里が演じたヒロインに関しては、ただただあっちへ行ってほしい。超自己チューの他力本願女。ウツを抱えているのだが、このヒロインには他人までウツをうつしかねない鬱陶しいパワーがあり、しかもブレない。傷つきやすいくせに他者の痛みには鈍感なこの女を、映画はイイコ、イイコするように撮っているが、こちらにはどうでもイイコの映画だった。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
日本文学およびその影響下にある日本映画の宿痾たる病妻もの。これにはもう飽き飽きし、それへの魅力的な反駁をいつも待ち受けている。本作は見事にそれであった。鬱の同棲相手につきあううちにかつて見たことないほどの鬱になる菅田将暉であるが、なぜその相手の趣里を見捨てないのか。愛というよりむしろ彼は彼女が躁鬱の躁のサイクルになるのを待っているのであった(という映画に見える)。これは斬新。走るときのあのアキレス腱、あの裸体、私も趣里演じる寧子に魅せられた。
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映画評論家
松崎健夫
部屋から抜け出せないヒロインには“やりたいこと”がない。そして、部屋の外では“やりたいこと”をやれないでいる。人生における“選択肢”が彼女に無いことは、スーパーの場面や弁当を選ぶ場面がメタファーにもなっている。本谷有希子は句点を用いないことによってヒロインの苛立ちを小説で表現していたが、趣里は言葉のテンポとリズムでそれを表現してみせている。赤き衣を纏った激情の女と不器用な物書きの男というふたりが、「ベティ・ブルー」の男女関係を想起させるのも一興。
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