大和(カリフォルニア)の映画専門家レビュー一覧

大和(カリフォルニア)

「霊的ボリシェヴィキ」の韓英恵主演、米軍基地を有する神奈川県大和市を舞台に、語るべき言葉を模索する少女を描く青春ドラマ。ラップの練習と喧嘩に明け暮れるサクラ。ある日母の恋人である米兵アビーの娘レイが来日し、二人は音楽の話を通じ距離を縮める。監督は、「夜が終わる場所」でメガホンを取り、「ひかりをあててしぼる」などの脚本を手がけてきた宮崎大祐。大和市に隣接する相模原市出身のラッパーNORIKIYOが本人役で出演するほか、Cherry Brown、ロックバンド割礼の宍戸幸司、GEZANらミュージシャンが集結している。第12回大阪アジアン映画祭コンペティション部門にて日本初上映。
  • 映画評論家

    北川れい子

    彼女は全てに苛立ち怒っている。日本に、自分が住む基地の町・厚木に、親米的な自分の家族に、そして何よりも苛立ち、不貞腐れている自分に。一匹狼のラッパー娘、サクラ。その怒りをことばにするために、夜ごと、辞書の頁をめくったりも。この怒りは、いつかは妥協や諦めに変わるかもしれないが、いま怒っている彼女のその姿は、実に実に説得力があり、演じる韓英恵、指の先までサクラになり切っている。タイトルにも毒を盛り込んだ監督・脚本の宮崎大祐に最大級の共感を捧げたい。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    私は好きな音楽もあるしミュージカル映画を観ても楽しいと感じる性質だが、最近は、映画で音楽がさりげなく使われることを超えて聴かせます歌ってますとなる場合や主題や登場人物が音楽についてこだわる映画の場合、まさにその場面で心地よく鳴ること巧みに歌われることはその音楽で何かが隠されてしまわないだろうかという疑念と不満を抱いている。本作の韓英恵がラッパーを志望することで自らに招きよせる吃音性と克服、それを状況にまで重ねようという狙いには感嘆させられた。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    韓英恵は怒りに満ちた眼差しで相手を睨みつける。その視線は常にやや斜め上の角度を形成。それは彼女の背丈や表情が伏しがちなことにも起因するが、時折爆音が鳴り響く大空に視線を向けているようにも見える。彼女の名前〈さくら〉は、大和=日本を象徴する花。孤高の抗いは美を伴い、社会の中で独り咲き誇る〈桜〉のようでもある。映画冒頭、彼女は上空を通過する軍用機を睨みつける。彼女のぶつける怒りは個々人に対してのように見えて、実は社会に対してなのだと言わんばかりだ。

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