翔んで埼玉の映画専門家レビュー一覧

翔んで埼玉

魔夜峰央が1982年に発表した同名コミックを実写映画化。埼玉県民は東京都民から迫害を受け、身を潜めて暮らしていた。そんななか、東京トップの高校の生徒会長で都知事の息子・百美は、アメリカ帰りの転校生・麗と惹かれ合う。だが、麗は埼玉出身だった。出演は、「リバーズ・エッジ」の二階堂ふみ、ドラマ『風林火山』のGACKT。監督は、「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹。
  • 映画評論家

    北川れい子

    それにしても“隠れ埼玉県人”への踏み絵が“草加せんべい”とは、泣けるほどおかしい。こう書きながらも笑いが止まらない。ハロウィンのコスプレごっこのような衣裳も、ぶっとんだギャグコメディのビジュアル化として痛快で、宝塚の舞台から抜け出したようなGACKTのナリフリも似合いすぎて笑える。埼玉県人のこれでもかの自虐ネタが、卑下自慢ふうなのも愉快。関東各県の扱いもマジメにふざけていて、それなりにナルホド感がある。ただ関東圏以外の方がどう観るかチト心配。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    首都圏生活感覚がある人間ならわかるネタに基づく、良い意味でナンセンスで大仰なギャグ映画だが、根底には真実恐ろしいものがある。ボリス・ヴィアン『墓に唾をかけろ』を連想。出自に由来する差別への呪詛は犯し、殺しても足りぬだろうし、その復讐者は吊るされる。観ながらGACKTがそこまでやる・やられることまで一瞬想像した。埼玉を本気で蔑むことの奥にはそれがある。この“埼玉”は人種、国籍、出身地にも置換しうる。しかし観れば楽しく、振り切った、良いコメディ。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    かつて、区でも市でもない〈郡〉と呼ばれる地域に住んでいた頃、郡内のふたつの町は“海側”と“山側”で仲違いしていた。海側の町民が「田んぼばかりで工場もない田舎」とディスれば、山側の町民は「光化学スモッグで息もでけへん」と反論する。実に不毛であったことを思い出す。その点、本作で描かれる「埼玉に対するディス」は、自嘲することで相手を牽制させているというメカニズムが痛快。またセットや衣裳にこだわることで、魔夜峰央の世界を忠実に映像化している点も秀逸。

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