ジュリアン(2017)の映画専門家レビュー一覧
ジュリアン(2017)
第74回ベネチア国際映画祭にて最優秀監督賞(銀獅子賞)を受賞したドラマ。ブレッソン夫妻は離婚し、11歳になる息子の親権内容を争っている。元夫に子供を近づけたくない母ミリアムだったが、裁判所は夫アントワーヌに息子への面会の権利を与える。彼は面会の度に息子ジュリアンから母の居場所を聞き出そうとするが、ミリアムは電話に出ず、住所さえ伝えない。母親を守るためジュリアンは必死に嘘をつくがアントワーヌに嘘を見破られてしまい、彼が家に乗り込んでくる。ジュリアンは母親を守ることができるだろうか……。
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ライター
石村加奈
「シャイニング」からインスピレーションを得たというプレスの説明に納得。親権問題なぞぶっ飛ばすホラー映画だ。大柄なDV父親と車中という密室で何度も二人きりにされるなど11歳のジュリアンが置かれた恐怖のシチュエーションは震撼必至。自身の存在が息子を脅かすことに気づかぬ父とその状況を甘んじて受け容れる母(哀しい程自己中な両親)、恋に夢(逃避)中の姉、少年は孤立無援である。ラストシーンの、危機を救ってくれた隣人に投げた母親の鋭い一瞥まで、ただただおそろしい。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
冒頭は家庭裁判所の女性判事のバックショットから始まる。窓外を眺めるその姿から、「太陽のめざめ」(15)のような判事目線の社会派映画と思いきや、冒頭の判事はその後まったく登場せず、人を食ったフェイントだ。シリアスな内容を遊戯的に扱いたいらしい。離婚した父親のDV問題を、虚飾を排したリアリズムで淡々と撮っていると思ったら、徐々にサスペンスタッチとなり、あげくにはホラーのようになる。スタイルの変化を楽しめる人とそうでない人で評価が分かれるだろう。
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脚本家
北里宇一郎
父が猟銃をもって母子を襲う。そこを、逃げ追っかけの鬼ごっこにしなかったこの演出。静けさの中にじわじわと怖さが滲みてくる。父親の役者が凄く巧くて、孤独の切なさをちらりちらりと匂わせる。ただのサスペンスではない。追いつめられた少年、それを誰にも明かさない孤独。母も娘も、どこか自己を抱えて生きている。そのみんなの孤独が積もり積もって爆発したようなクライマックス。止めは隣人の老女の寂しさ。人間同士のどうしようもない気持ちのズレ。それが滓のように残って。
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