半世界の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
3人の男たちそれぞれに、妻役の池脇千鶴に、この町の人々やここに流れる時間に、気が付いたらしっかり同化、映画に向かって挨拶したくなった。特にオレたちは正三角形だと言いながら、二等辺三角形の底辺という立場で稲垣吾郎と長谷川博己をさりげなく支えている渋川清彦。渋川と父親役・石橋蓮司とのやりとりなど、もう絶品。阪本映画特有のガムシャラ性が健在なのも嬉しい。タイトルからも伝わってくる、生きるということの羞恥心もみごと。久々に味わう日本映画の秀作だ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
あるキャラクターがアリかナシか、成立するかどうかはピンポイントなこと、そのポイントの純度の高さだと思う。クレイグ・トーマスの小説『ファイアフォックス』でソ連にミグを盗みに来た米空軍パイロットミッチェル・ガントがあまりにもキョドッた男なので協力者たちは訝しむが、誰かが彼に、あんたはあれに乗って飛びたいか、と問うとガントは激しい渇望を表し、質問者は、ああこいつなのだ、と了解する。炭焼き窯の炎を見つめる稲垣吾郎の黒々と光る瞳にそれと同じものを見た。
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映画評論家
松崎健夫
炭も人も「関係性をじっくりと作り上げることが重要ではないか?」と問いながら、他人の気持ちを汲むことの難しさも提示。阪本順治監督は本作においても、登場人物の立ち位置に高低差を設けることで、各場面におけるイニシアティブのありかを視覚的にも表現。世界と世間、あるいは、都市と地方の乖離を描くことで、「ディア・ハンター」(79)の底辺に流れる精神を日本の地方を舞台に成立させようとしている感もある。無骨な眼差しを放つ市井の人間を演じた稲垣吾郎が素晴らしい。
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