沖縄スパイ戦史の映画専門家レビュー一覧

沖縄スパイ戦史

第二次大戦末期の沖縄戦で、日本軍の特務機関・陸軍中野学校が関わった“秘密戦”に迫るドキュメンタリー。1944年晩夏。42名の陸軍中野学校出身者が沖縄に渡り、身分を隠し各地に潜伏。まだ10代半ばの少年たちを“護郷隊”として組織し、アメリカ軍を翻弄する。監督は「標的の村」の三上智恵と、学生時代から八重山諸島の戦争被害の取材を続けてきた大矢英代。撮影を三上監督の「戦場ぬ止み」「標的の島 風かたか」でもタッグを組んだ平田守、音楽をエレクトリック・ヴァイオリン奏者の勝井祐二が担当する。2018年7月21日より沖縄・桜坂劇場にて先行公開。2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位。
  • 評論家

    上野昻志

    大戦末期の沖縄北部で、陸軍中野学校出身者が、十代半ばの少年たちを護郷隊として組織して謀略戦=「裏の戦争」を行ったという事実を、本作で初めて知った。そればかりか、陸軍中野学校出身者は沖縄各島に配置され、内一人は「疎開」と称して住民を悪性マラリアが猛威をふるう西表島に送った結果、波照間の住民の3分の1が犠牲になった。軍にとっては、住民は利用し、監視する対象であって、守る対象ではない。現在に通じるこの現実を、これほど明瞭に示した映画はない。

  • 映画評論家

    上島春彦

    沖縄戦というのは聞いたことがあったが、この作品に描かれるのはその名で呼ばれる戦闘時に島の北の地域で起きていた事例。少年を兵隊にし、スパイにし、わざと捕虜にさせて破壊工作をやらせる、という明らかな戦争犯罪を指令したのがかの「陸軍中野学校」である。さらに彼らが、食料を強奪する目的で島民を強制的にマラリアの島へ疎開させたと聞けば、沖縄の静かな憤りが他ならぬ日本に向けられるのも当然だろう。戦後PTSDを発症し座敷牢に閉じ込められた少年の挿話が悲しい。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    苛酷な戦争体験を余儀なくされた沖縄の子どもたちが80代も半ばを迎えて生々しく語る声と表情に圧倒される。少年ゲリラ兵の悲惨な境遇を今の時点で聞くことが出来る貴重さは、歴史を忘却した振る舞いが大手を振る中で重く響く。暗躍する中野学校出身者にゾッとするが、非武装の離島に教員として現れて愛嬌を振りまいた後に豹変する姿が、痕跡を多く遺す島の風景に証言が重なっていくことで異様な迫力を生む。最近まで生存者がいたために語られなかった地元の闇に言及した点も見事。

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