沈黙、愛の映画専門家レビュー一覧
沈黙、愛
「オールド・ボーイ」「悪いやつら」のチェ・ミンシク主演によるサスペンス。巨大ゲーム会社の代表イム・テサンは、権力、富を手中に収め、輝かしい人生を歩んでいた。だがある日、婚約者の歌手・ユナが惨殺され、テサンの愛娘ミラが殺人容疑で逮捕されてしまう。共演は「あの日、兄貴が灯した光」のパク・シネ、「タクシー運転手 約束は海を越えて」のリュ・ジュンヨル、「私は王である!」のイ・ハニ。監督は、長編デビュー作「ハッピーエンド」でチェ・ミンシクとタッグを組んだチョン・ジウ。
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ライター
石村加奈
「ハッピーエンド」の衝撃から、今回はどんな仕掛けが? と構えていたのだが、タイトル通りで拍子抜け。というより、チェ・ミンシクだからこそ成立した物語だ。そういう意味では、話が転調する時のカメラワークなど、クラシックな技法で展開する実にスタンダードなドラマと言える(タイパートのスケール感にはびっくりしたが!)。マイクルーザーでピアジェを贈った恋人とカップラーメンをすする、中年オヤジの複雑怪奇な胸の内を淡々と演じるミンシクの演技力。予測不能の恐ろしさだ。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
チェ・ミンシクという俳優は見ているだけで楽しい。彼が苦悶したり、追いつめられたり、傲慢なふるまいで周囲に顰蹙を買ったりするだけで絵になってしまう。本作はそこに目をつけ、彼はオーソン・ウェルズのように悲喜劇的な破滅者としていたぶられる。だが婚約者は殺されるためだけ、娘も疑われるためだけにいるようだし、昨今ありがちな結末ドッキリ主義がここでも頭をもたげ、世界を小さく閉じてしまう。むしろ、彼の軌道修正され続ける欲望、そのせわしなさこそを楽しみたい。
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脚本家
北里宇一郎
大富豪で権力者の若き婚約者が殺害されて、彼の娘が容疑者に。だけど彼女は事件の夜、泥酔して記憶が一切ない。さて、その真相は? てなミステリーで、女性弁護士が探偵役。当然、裁判のやりとりがカギとなるが、あまり論理的展開ではない。トリックには穴があるし、弁護士がさほど頭を巡らさずとも、向こうから真相のヒントが飛びこんできたりと、終始、受け身なのが物足りない。結局、チェ・ミンシクの父物スター映画の趣で、その観点からすれば見応えがある。ちと泣きが濃いけど。
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