天国でまた会おうの映画専門家レビュー一覧

天国でまた会おう

2013年、フランスで最も権威のある文学賞のひとつ、ゴンクール賞に輝いたピエール・ルメートルの小説『天国でまた会おう』を、俳優のアルベール・デュポンテルが映画化。西部戦線から帰還したエドゥアールとアルベールは、声を失ったエドゥアールの思いを通訳する少女を加え、国を相手に詐欺をはたらこうと計画する。御曹司で画才に恵まれたエドゥアールを「BPM ビート・パー・ミニット」のナウエル・ペレーズ・ビスカヤートが、彼を手伝う小心者のアルベールをアルベール・デュポンテルが演じる。2018年セザール賞にて監督賞など5部門受賞。
  • ライター

    石村加奈

    原作者ピエール・ルメートルとアルベール・デュポンテル監督が共同脚本にあたり、華麗なる脚色を施すことで、原作ファンも映画ファンも楽しめる、幸せな映画に仕上がった。ラストシーンも秀逸だが、軽やかに戦争の責任者を糾弾するパーティーシーンが白眉。デュポンテル監督の冷徹な眼差しが冴える。美術、衣裳等趣向を凝らした作品世界の中でも、エドゥアールの心を表現する、美しい仮面が印象的だ。最後の青い鳥の仮面は、エドゥアールの涙がちりばめられ、光っているようにも見えて。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    ゴンクール賞小説の映画化で、セザール賞5部門受賞という非の打ち所なき栄光。ヌーヴェルヴァーグなんてこの地上に存在しなかったかのごとき「フランス映画の良質な伝統」を地で行く作りだ。顔面を破損した復員兵のために用意されるマスクを担当したのは、仏演劇界の著名な仮面制作者C・クレッチマー。全体として古色蒼然とした映画作法に停頓する本作にあって、最も精彩を放つのが彼女の手になる仮面で、それは仮面の主が死ぬまで脱がれることがない。「赤い靴」のように。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    伝奇小説の味。それも絢爛な挿絵で彩られた。顔を半分失った青年。その美しさと醜さが並んだ容貌。仮面が、彼の心の裡を隠し、強調する。人間の魂を呼びこむようなそのデザインに、こちらも魅了されて。この青年の心を理解するのが少女というところに、ちらり「オペラ座の怪人」も匂う。狂言回しを務める戦友、その道化風キャラ。戦後も堂々と生き残る元上官の悪役ぶり。そんな大衆ロマン的装いを絞りに絞りこんだら、父と息子の愛憎譚が残った。青年の痛みと哀しみが胸に刺さった。

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