天才作家の妻 40年目の真実の映画専門家レビュー一覧
天才作家の妻 40年目の真実
ノーベル賞授賞式を背景に、人生の晩年に差しかかった夫婦の危機を見つめる心理サスペンス。世界的な作家ジョゼフと彼の創作を慎ましく支えてきた妻ジョーン。理想的なおしどり夫婦に見えるふたりの関係は、夫のノーベル文学賞受賞によって静かに壊れ始める。ジョーンを「危険な情事」のグレン・クローズ、ジョゼフを「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのジョナサン・プライス、ジョゼフの経歴に疑惑を持つ記者ナサニエルを「ニンフォマニアック」のクリスチャン・スレーターが演じる。監督は、スウェーデンで芝居の演出なども手がけるビョルン・ルンゲ。脚本を「あなたに降る夢」のジェーン・アンダーソン、音楽を「アイズ・ワイド・シャット」のジョスリン・プークが担当。原作は「ディス・イズ・マイ・ライフ」のメグ・ウォリッツァー。
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批評家、映像作家
金子遊
文学の世界に限らず「権威」は虚構である。1901年から始まったノーベル文学賞だが、最初の10年は知らない書き手ばかり。それが、いつからか著名人が受賞するようになり、多額の賞金を支払う後ろ盾があらわれ、誰もがほしい賞になっていった。本作ではアメリカ人の小説家の受賞が決まり、妻や息子を連れてストックホルムへ行き、想像通りの授賞式が行われるが、不穏な影がつきまとう。去年が選考委員にまつわる疑惑のため不開催に終わったことを考えると、タイムリーな作品である。
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映画評論家
きさらぎ尚
夫がノーベル文学賞を獲ったとなると、この上なくめでたい。だが、妻のゴーストライティングだったら……。内助の功は確かに愛情であり、主題はずばり愛と献身。出版界や文壇が男性社会だった過去も描いた物語から見えるのは、女性はややもすると結婚で才能や機会を、自ら諦めてしまいかねないということ。達者な俳優の共演でドラマの安定感に申し分はなく、祝福の声をかけられるたびに見せるクローズの複雑微妙な表情が主題を象徴。そして妻の決断は無論、単に過去の否定ではない。
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映画系文筆業
奈々村久生
18年末に邦訳が出版された『82年生まれ、キム・ジヨン』は、女性が生きることの困難さを極めて冷静な筆致で掬い上げ、韓国では映画化も決定している。47年生まれのグレン・クローズが演じた本作のヒロインから事態は今でもほとんど変わっていない。劇中でクローズが幾度となく見せる、怒りと悲しみを理性でくるんだような複雑な表情がすべてを物語る。タイトルは原題のほうがいい。これは特殊な夫婦のケースではなく、すべての女性、そして「妻」という存在についての映画だからだ。
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