ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャーの映画専門家レビュー一覧
ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー
小説『ライ麦畑でつかまえて』の著者J.D.サリンジャーの謎に満ちた半生を綴る伝記ドラマ。社交界での恋愛、彼の才能を見出した編集者との出会い、戦地での苦難を経て書き上げた初長編小説が社会現象を巻き起こすが、サリンジャーは表舞台から姿を消す。「聖杯たちの騎士」など俳優として活躍する一方で「大統領の執事の涙」などで脚本を手がけたダニー・ストロングが、ケネス・スラウェンスキーによる評伝『サリンジャー 生涯91年の真実』を映画化。孤独を抱えたサリンジャーを「X-MEN」シリーズのニコラス・ホルトが、彼の才能を見出した編集者バーネットを「アメリカン・ビューティー」のケヴィン・スペイシーが演じ、20世紀を代表する名作誕生の背景を描く。
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批評家、映像作家
金子遊
『ライ麦畑でつかまえて』や『フラニーとゾーイ』などの小説は読んでいたが、謎めいたサリンジャーの生涯はよく知らなかった。コロンビア大学で創作を学ぶも第二次大戦は戦場の最前線で過ごし、やがてベストセラー作家になるもファンに追いかけられて田舎に隠棲する。師事した教授や編集者、恋人や妻とのドラマを交えながら説得的に描く。アメリカ映画離れした陰影の濃いライティングと、東海岸のヨーロッパ的な建築物や室内装飾のなかに作家の成長と喪失が刻みこまれた見事な作品。
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映画評論家
きさらぎ尚
『ライ麦畑でつかまえて』を何度か読んで知った気になっていたJ・D・サリンジャー。だが映画のニコラス・ホルトのサリンジャーは、活字の中にのみ存在していた作家に肉を付け血を通わせてくれる。ストーク・クラブに足繁く通う青年のウーナ・オニールへの恋。軍隊生活に戦争体験。PTSD、禅やヨガへの傾倒。そうか、ホールデンはサリンジャーだったのか。ケヴィン・スペイシーのストーリー誌編集長との関係が見どころ。二人のラストが余韻を残す。きれいにまとめた半生記だ。
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映画系文筆業
奈々村久生
映画的な文学というものがあるとしたら、これは文学的な映画だ。映画が表層だとしたら文学は内面であり、本作の映像文体は内面から組み立てられているように見える。ニコラス・ホルトは作家という厄介な、そして愛すべき生き物の醜さに、実に美しく寄り添っている。サリンジャーといえばその生涯の長きは隠遁生活であり、生前から半ば伝説的な存在となっていたが、その神秘性がまた彼の文学性を高めたともいえる。このような映画が作られたのも本人の没後だからこそできたことだろう。
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