赤い雪 Red Snowの映画専門家レビュー一覧
赤い雪 Red Snow
永瀬正敏と菜 葉 菜のダブル主演で、人の記憶の曖昧さを浮き彫りにしたサスペンス。30年前に弟が失踪し心に深い傷を負った一希のもとに、当時事件の容疑者として浮かびながら無罪となった女の娘・小百合が見つかったとの知らせが入り、運命が動き始める。監督は、短編「オンディーヌの呪い」で山形国際ムービーフェスティバル2014準グランプリやSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015短編部門奨励賞を獲得した甲斐さやか。長編デビュー作となる本作では、かつて実際に起きた事件に着想を得て、不確かな記憶に依らざるをえない人間の儚さを雪景色に重ねて描く。
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映画評論家
北川れい子
寒々しく、ものものしく、いかがわしく、謎めいているが、映画が始まってすぐに“当たり”をつけたら、まさにドンピシャで、騙されるまでもなかった。被害者が結果として加害者だったというのはミステリーでは珍しくないし、記憶の一部欠落も防衛本能としてよく使われる手法で、そういう意味でこの脚本、底が割れている。但しこれが長篇デビューの甲斐監督、脚本はともかく演出はかなり達者。力のある俳優をカムフラージュ役に使うとか、度胸もある。それと別人のような夏川結衣!!
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
先日この欄のために観たオーガニック的な映画に関して興味深かったことはそれに出てくる農家酪農家漁師の役の俳優が一人を除いていわゆるイケメンではなかったこと。第一次産業顔とか第三次産業顔というものがあるのか。どうやらある。その点本作の役者は全員持続可能な存在感を湛えている。吉澤健、坂本長利をはじめ誰だかわからず味のある老人だなーと見ていて途中で気づいて納得。生の暗い面、思い出したくもない忌まわしいものをこそ映画は描いてほしい。それは叶っていた。
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映画評論家
松崎健夫
作品の舞台はいくつかの理由によって〈冬〉でなければならないと思わせる。例えば、降り積もる〈雪〉。重要な何かを覆い隠しながら、季節の変化によってその姿を消してゆくことで、時の経過により薄れゆく〈記憶〉のメタファーになっている。同時に〈雪〉は、血を想起させる〈赤〉を印象付けるためのモチーフでもある。また厳しい寒さは、人を屋内へと追いやる作劇上の装置として機能。そしてエンドロールの書体は、登場人物たちと同様に何かが“欠けている”ことをも表現している。
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