シシリアン・ゴースト・ストーリーの映画専門家レビュー一覧

シシリアン・ゴースト・ストーリー

1993年にシチリアで起きた事件をもとに紡ぐ寓話的なラブストーリー。シチリアの村に住む13歳のルナは、同級生のジュゼッペに好意を寄せる。2人の仲が深まろうとした矢先、ジュゼッペは突然姿を消す。大人たちが口をつぐむなか、ルナは彼の行方を追う。監督・脚本は、「狼は暗闇の天使」のファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァ。2017年カンヌ国際映画祭批評家週間オープニング作品。劇場公開に先駆け、イタリア映画祭2018にて上映(上映タイトル「シチリアン・ゴースト・ストーリー」)。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    解説や批評を読んで、腑に落ちる映画がある。本作を見終わって、何か釈然としない心地が残ったままで解説を読み、これが実際にあった誘拐事件をモデルにした物語なのだと理解した。事件や事故で愛しい人を亡くしたとき、残された者は、彼や彼女が内的には幸福な最後を迎えたのだと信じたくなる。それが唯一の癒しの方法だ。同様に、理不尽で救いようのない現実に対して映画にできることは、本作のように、すでに起きてしまったできごとを想像力によって覆すことくらいではないか。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    実際の酷い誘拐事件を幻想的な映像で綴り、少年と少女のラブストーリーに昇華させたセンスは○。カギは二人の純な心。忽然と姿が消えた少年を救いたい少女の必死の思いが、心象風景として幻想的な映像になる。そして奔走する彼女の存在は、死の淵で生きたいと切に願う少年のリアルな希望。結果、事件は現実を超えた視線を宿すファンタジーになったが、他方、少年の家族を含めた周囲の人の「知らない振り」は、マフィアがはびこる地の現実に即した防衛手段だろう。不気味で恐ろしい。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    思いを伝えた直後に姿を消したジュゼッペを、ヒロインのルナは実に辛抱強く探し続ける。大人たちの無視と沈黙への抵抗から青く染めた髪が、坊主に刈られてからボブに伸びるほどまでには。それは現実と幻想の境を彷徨う思春期の心象風景そのものであり、撮影のルカ・ビガッツィが、パオロ・ソレンティーノ作品でも披露した圧巻の映像美で魅せる。馬に乗って駆け抜けるジュゼッペの麗しい残像が刻みつける痛ましい事件。ルナを演じたユリアの、少女らしくなく低音の利いた声が素晴らしい。

1 - 3件表示/全3件