喜望峰の風に乗せての映画専門家レビュー一覧

喜望峰の風に乗せて

「キングスマン」のコリン・ファース主演、「博士と彼女のセオリー」のジェームズ・マーシュ監督による実話を基にした海洋冒険ドラマ。1968年、イギリスで開催されたヨットによる単独無寄港世界一周を競うレースに挑んだビジネスマンの苛烈な運命を映し出す。共演は「ナイロビの蜂」のレイチェル・ワイズ、「ワンダーウーマン」のデヴィッド・シューリス。脚本を「ボーン・アルティメイタム」「サイド・エフェクト」のスコット・Z・バーンズ、撮影を「モーターサイクル・ダイアリーズ」「イントゥ・ザ・ワイルド」のエリック・ゴーティエ、音楽を「ボーダーライン」「メッセージ」のヨハン・ヨハンソンが務める。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    悪い意味ではなく、このプロットやこのシナリオでよくぞ映画化に踏み切れたものだと感心してしまう。主人公は現実から少しだけ遊離してはいるが、家族想いの良き父親であり、良き夫である。ヨットで無寄港の世界一周旅行に出ようと思いつくまでは……。大海原を前にしたときの人間存在の卑小さが克明に描かれる。実話を基にした作品なので、物語を大幅に変更することもできなかったか。偉業を成し遂げる人物たちのノンフィクションを見慣れた目には、あまりに苦いリアルな物語である。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    まず主人公のレース参加の無謀は疑いようもないが、準備不足で棄権したい旨を伝える素人の彼を焚きつけた記者やテレビ局も如何なものか。ともかく航海中のアクシデントやトラブルに対処できないのは当たり前。そのせいか、追い詰められていく様をそこそこに、家族や支援者や報道のエピソードにかなりの比重が。ヨットの中の主人公から目を離さず、大海原での孤独や技術的な試練の話を描き込んでいたら、もう少し深みのある海洋冒険映画になっていたと思う。脚本も準備不足だったか。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    のどかな邦題とは裏腹に過酷で孤独なヨットレースに挑むコリン・ファース。デプレシャン作品でお馴染みのエリック・ゴーティエの撮影と故ヨハン・ヨハンソンのスコアが素晴らしく、大洋の中でたった一人、己と向き合う男のドラマが端正ながらもスリリング。青い海と美しい太陽の下、ヨットという限られた空間を様々な角度から見つめる映像はマッチョではなくどこかエレガントで、荒れ狂う波や吹きすさぶ風といった物理的な闘いよりも、そこに生きる人間の内面を掘り下げていくのだ。

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