ひかりの歌の映画専門家レビュー一覧

ひかりの歌

光をテーマにした短歌コンテストで1200首の中から選ばれた4首の短歌を原作に「ひとつの歌」の杉田協士監督が映画化。誰かを思う気持ちを抱えながら、それを伝えられずに日々の生活を続ける都内近郊に住む女性たちを、静かにやさしく包む光のありかを映し出す。出演は「重なり連なる」の北村美岬、「寝てるときだけ、あいしてる。」の笠島智、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の並木愛枝、「凶悪」の廣末哲万。撮影は「うたうひと」の飯岡幸子。第30回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門正式出品作品。
  • 評論家

    上野昻志

    四つの短歌に触発された断章、四篇。中心にいるのは、いずれも女性で、それぞれの今が写し出されている。カメラは、彼女らの行動に寄り添うが、決して、その[内面]に踏む込むことはない。多くの映画が、そこに登場する人物を手の内に入れているかの如く振舞うことに対する明確な抑制があるのだ。にもかかわらず、わたしたちは、彼女たちが抱えているだろう物語や、それに伴う想いを想像する。その想像は、見終わった後まで、こちらの胸に反響する。映画のもう一つの姿がここにある。

  • 映画評論家

    上島春彦

    光を主題にした四つの現代短歌にインスパイアされた脚本。だから四話構成。挿話は各々独立するが少しだけ人物とかダブらせてある。内容は略。ダンダンよくなる法華の太鼓、初めは何をしたいか不分明だったが終わりの盛り上がり感が凄い。光とは人の思いのこと。通じたり通じなかったりする、だが、短歌の意味と脚本上の物語はあくまで不即不離。それが面白い。特に最後の、行方不明だった夫がふらっと戻ってきたのを迎える妻の話が上手い。思いがけない歌の効能という側面も見逃せない。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    詩や短歌を原作にすると、言葉を映画にする気負いが鬱陶しく感じることがあり、本作にも同様の危惧を抱いたが、穏やかな映像の連なりにすっかり魅了される。キャメラは常に適切な位置に配置され、余計な夾雑物は画面から周到に排除し、ヒロインたちと風景の距離が美しい均衡を保つ世界がそこに現れる。バイト先のカウンター、自販機の光と墨汁のように広がる濡れた夜道、薄暗い学校の廊下など、辺りに漂う湿気も含めて、映画的な光景を映し続けることで、最少の言葉を光らせる。

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