ともしび(2017)の映画専門家レビュー一覧

ともしび(2017)

シャーロット・ランプリングが、第74回ヴェネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したヒューマンドラマ。ベルギーの小都市で夫と老後を慎ましく暮らすアンナ。だが夫が犯したある罪によって、その生活の歯車は狂い始め、不安と孤独の冷たい雫が彼女に流れ込む。共演は「ル・アーヴルの靴みがき」のアンドレ・ウィルム。監督は、本作が長編2作目となるイタリア出身の俊英アンドレア・パラオロ。
  • 批評家、映像作家

    金子遊

    本作を見ながら、70歳過ぎの老母のことを考えていた。両親は40年以上連れ添っているが、ある日、入院や死や収監で夫を奪われたら、このような生活ではないだろうか、と。監督はわかりやすい会話や物語を捨てて、シャーロット・ランプリングの存在感と映像によって語ることを選んだのだと思う。主人公がパートに行って、演劇教室やプールに行くだけの日常を描いているのに、キレのいいカット割と周囲の光景を巻きこむカメラワークが、言葉にならない彼女の感情の襞を表現している。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    S・ランプリングの新作とくれば、“どんな女性を演じているか”の期待が募る。今回は孤独の闇を知覚した高齢の女性。つましい一人暮らしで、息子にきっぱり拒絶され、まるでカメラに感情をぶつけるように、号泣するシーンは衝撃的。説明のセリフも描写も最小限に止めたこのドラマで、ランプリングは若くない肉体を晒して、一人で生きる冷え冷えとした孤立感、そして生き直す強さを創造した。気配から闇へと、グラデーションのように濃くなる孤独感。女優と監督の信頼感が画面に溢れる。

  • 映画系文筆業

    奈々村久生

    劇中でほとんど言葉を発しないシャーロット・ランプリング。その胸の内を探るため、彼女の一挙手一投足を見守る、息を詰めるようなスリリングな時間が至福。静かな彼女の生活をじわじわととらえる孤独と喪失を表現した音の演出がすごい。演劇ワークショップでの発声練習は奇声レベルだし、普段乗り降りする地下鉄の扉の開閉や水音など、ちょっとした生活音が人生を脅かす暴力のように響く。そこに投げ出されたランプリングの裸体が、かろうじて彼女の存在を現実に刻み付けるのだ。

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