幸福なラザロの映画専門家レビュー一覧
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ライター
石村加奈
聖人ラザロと、小作制度が廃止されたことを農民に知らせず、作物を搾取し続けた侯爵夫人(80年代にイタリアで実際にあった詐欺事件がモチーフ)、侯爵家のダメ息子タンクレディ、詐欺集団の一味となった、村人のアントニアやピッポらを対峙させることで、俗なるものの汚れが払い落とされて、愛おしさに変わっていくという不思議な感覚に。侯爵夫人の城や、詐欺集団のアジトなど、登場人物たちの家々も趣があり、魅力的。「シルク」(07)のエミータ・フリガートが、美術を担当している。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
イタリアの無知蒙昧な村落共同体をメルヘンとして提示した点は今冬公開のA・ナデリ「山〈モンテ〉」と似ているが、本作はもっと軽やかに自由闊達に流離する。昨年カンヌの脚本賞受賞作だが、脚本だけで本作の魅力を語りきれまい。往年のE・オルミを思い出さずにはいられぬ、無常観を宿しつつも泰然自若とした構えを見るに、ドイツの父方姓ローアヴァッハーがイタリア風に転じてロルヴァケルと発音されるこの若き女性監督が、並の才能の持ち主でないことは明らかである。
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脚本家
北里宇一郎
ラザロは無垢な存在。何も主張しない。優しくされたら、献身で応える。これはそんなラザロの受難の映画で。裁かれるのは彼に関わる人間たちだ。前半が中世の如き農園。その領主と小作民の生活ぶりが、現代なおも続いていたというところが面白い。この舞台が後半、都会となっての、そのコントラストが意外に生きていない。再生したラザロと元農夫たち、それに(前半魅力の)若旦那が上手く絡まなくて。着想や設定はユニーク。だけど、それがふくらんでいかないじれったさが。残念。
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