バハールの涙の映画専門家レビュー一覧

バハールの涙

「パターソン」のゴルシフテ・ファラハニ主演によるヒューマンドラマ。愛する息子をISに拉致され途方に暮れる女弁護士バハール。数ヶ月後、息子を救出するため、女性武装部隊“太陽の女たち”のリーダーとなった彼女は、戦場へ向かい最前線でISと戦い始める。共演は「モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由」のエマニュエル・ベルコ。監督・脚本は『青い欲動』のエヴァ・ウッソン。
  • ライター

    石村加奈

    女性兵士のリーダー、バハールは「敵(IS)が殺したのは、恐怖心」だと言う。夫を殺され子供を奪われ、性的奴隷としてたらい回しにされ、全てを失った女たちは「女に殺されると天国に行けない」と信じるIS戦闘員たちの恐怖心を逆手に取り、男たち以上に大胆に戦う。全てを失ったと言いながらも、彼女たちが戦う理由には、戦闘訓練を強いられる子供の奪還がある。生きるとは、かくも哀しい。事実を語り伝えることで戦う、もうひとりの女戦士、戦争記者マチルドの存在が効いている。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    対ISレジスタンス女性部隊の隊長バハールを演じたG・ファラハニの顔がとにかく素晴らしい。愁いを帯びつつも確固とした意志の力を宿らせたまなざし。女性たちの尊厳を取り戻す戦いという絞り込みがテーマ主義に流れてはいるが、作品に明確な訴求力をもたらしてもいるのも事実。戦う側と報道する側、女と男、支配者と解放者、恐怖と勇気など、いくつもの二文法が図式的に配置された本作を評するのは難しい。でもそれらの最上位に君臨するのがファラハニの顔なのだ。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    まさに今、言わなければ描かなければという熱情にあふれ。ISに夫を殺された。子どもを拉致された。性暴力の被害にあった。泣く、嘆く。それじゃ何もはじまらない。立ち上がる。これは女たちの戦争映画だ。だけど男たちのそれと違うのは、戦闘時の顔が悲しげなこと。国境で立ったまま出産するという壮絶な場面には、これこそが女の闘いであり強さであることを匂わせる。主人公の隊長と戦場ジャーナリストのわが子への想い。それが重なり、最後の幻想となって。切ない。怒りが沸々と。

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