500年の航海の映画専門家レビュー一覧

500年の航海

フィリピンの鬼才キドラット・タヒミックが35年もの歳月を費やして完成させたドキュメンタリードラマ。大航海時代、史上初の世界一周に挑み、途中で命を落としたマゼランに代わって、偉業を達成したのはその奴隷エンリケだったという説に基づく一大叙事詩。監督のキドラット・タヒミックがエンリケを演じていたが、途中で交代した。第65回ベルリン国際映画祭カリガリ賞受賞作。
  • ライター

    石村加奈

    制作期間35年の大作らしく、ラストシーンが2度ある(!)という複雑怪奇な構成。頭を柔らかくして、拝見すべし(「幸福な国に歴史はない」というフィリピン人の言葉を引用した、本多勝一の名著『マゼランが来た』を読むのも効果的かと)。木彫りのイノシシをヨーヨーで撃退する寸劇があれば「世界はまるでヨーヨーだ」という格言もあり、ジュークボックスの前で陽気に踊る監督の母とエンドロールの歌がリンクしたりと、宇宙に委ねられた自由な世界の帳尻がピタリと合うから不思議。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    今年77歳となるタヒミックの映画作法はいよいよ無手勝流の極意に達し、本作の製作期間が35年間に及んだのも、本人曰く「宇宙の声を聞いたから」である。500年前のマゼランの世界旅行とタヒミック家の家族史が重なり合い、相異なる時空間が無秩序に(いや「宇宙の声」の秩序どおりに)乱反射する。だから現状の本作とて完成品とは限るまい。O・ウェルズ作品に未完成が多いのは映画史の悲劇だが、タヒミック映画が完成しないのは、愉悦と豊饒に満ちた生命の猶予なのである。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    恥ずかしながらタヒミック初見参。マゼランと世界一周航海をともにしたフィリピン人奴隷が主人公。さぞかしスケールの大きい画面が展開されると思ったが、裏庭で何やらゴチョゴチョやってる印象。そのかみの8ミリ作品を思い出す。が、そこに映画作りの原点を感じさせ。この監督、愉しみながら映画を撮ってるなあと嬉しくなる。なんか愛嬌があって。一方で欧米の世界観(と映画の作り方)に抗する反骨精神も感じさせ。ただし2時間半超えは長すぎ。時々休憩しつつのんびり眺めたらと。

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