盆唄の映画専門家レビュー一覧

盆唄

    「ナビィの恋」の中江裕司監督によるドキュメンタリー。先祖代々守り続けていた伝統“盆唄”の消滅を危惧しながら避難所生活を送る福島県双葉町の人々が、福島から伝わった盆踊りがハワイの日系人に愛されていることを知り、伝統を絶やすまいと奮闘する姿を追う。アニメーションパートの声の出演は「武士の献立」の余貴美子、「悪人」の柄本明、「パンク侍、斬られて候」の村上淳。第19回東京フィルメックス特別招待作品。
    • 評論家

      上野昻志

      双葉町の盆唄から、ハワイはマウイ島のボンダンスへ。歌と踊りが、太平洋を越えて出会うが、それは、ほんの序の口。本作は、盆唄を軸に、〈別れの磯千鳥〉や〈浜辺の歌〉、さらには〈ホレホレ節〉といった歌を招き寄せるばかりではなく、時空を往還して、ハワイの移民から相馬移民まで、さまざまな移民の物語を紡ぎ出していくのだ。それにより、原発崩壊で故郷を追われた人たちはむろん、さしあたって現在地に安住しているわれわれもまた、移民の末裔にほかならぬことに思い到るのである。

    • 映画評論家

      上島春彦

      試写状に福島とハワイの交流、とちらっと記されており最初にその件が描かれてしまって「もつのか、これ?」と危惧したわけだがもった、どころか大満足である。原発被災のせいで離散した集落、その絆を、盆唄と踊りの復活で取り戻す試みにカメラが密着。集落の起源をたどって北陸に舞台が飛んだり紙芝居になったり、意外な広がりを持つ。クライマックス、集落ごとに違う盆唄が立て続けに歌われる展開を聴いていると、赤の他人の私にすら、様々な感慨がこみ上げてくるのを禁じ得ない。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      声高に叫ばないのがいい。悲惨な状況を殊更に強調したり、無理矢理希望を持たせる作りでは白けるが、避難住民たちの達観した姿に寄り添い、先の長い道のりに少しばかりの明りを灯す。中盤のアニメーションで語られる相馬移民の挿話が、戦前のハワイ移民と現在の避難民に重なりあい、今もまた長い歴史の只中にあることを実感させる。唄で躍動させてきた中江裕司が撮ると俄然盆唄が際立つ。最初は普段のひっそりとした声から抜け出せなかった唄い手が、やがて大きな歌声を響かせる。

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