空の瞳とカタツムリの映画専門家レビュー一覧

空の瞳とカタツムリ

TV『深夜食堂』シリーズを手がけた荒井美早によるオリジナル脚本を、父・荒井晴彦企画のもと映画化。不特定多数の男性と行きずりの行為を繰り返す夢鹿と、ある出来事がきっかけで潔癖症となった十百子が互いを求めながら傷つけ合う姿を繊細なタッチで映し出す。夢鹿役の縄田かのん、十百子役の中神円は本作が映画初主演。ほか出演は「栞」の三浦貴大、「兄友」の藤原隆介、「人魚の眠る家」の利重剛、「名前のない女たち うそつき女」のクノ真季子、「万引き家族」の柄本明。撮影を「スティルライフオブメモリーズ」の石井勲が担当。「空の瞳とカタツムリ」というタイトルは、故・相米慎二監督の遺作「風花」のタイトル変更案として最終候補まで残ったもので、相米監督の弟子筋である「なにもこわいことはない」の斎藤久志が監督を務める。第19回東京フィルメックス特別招待作品。
  • 評論家

    上野昻志

    自宅のドアノブにも直には触れられず、執拗に手を洗い、浴室の床もまずシャワーで洗わずにはいられない潔癖症の女と、男となら誰とでも寝るが、それも一回限りという女との微妙な関係は、女性脚本家ならではの繊細さで描かれているが、三浦貴大演じる男との関係が、いまひとつわかりにくい。元は、三者が一体の関係だったというのだが、画面からは読み取れず、そのわりに、ベッドシーンなど妙に説明的なショットがあって、関係の解体=解放に向かう時間の流れを停滞させている。

  • 映画評論家

    上島春彦

    過度の潔癖症というのが脚本アイデアの出発点らしいが、そこからむしろ逆の極に跳躍して、不思議な関係の女二人の奇想を紡ぎ出した脚本家の手腕に舌を巻く。タイトルにあるようにカタツムリの恋矢もヒントになっている。傑作「風たちの午後」とは異なり、ヘンな二人を中心にして、周囲の人がまともなのも救い。それにしても、アトピーの美少年が金井勝や藤田敏八の映画で活躍したむささび童子を連想させたのも不思議。ピンク映画館のたたずまいが撮影や雰囲気含め絶妙なのも嬉しい。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    企画に名前を連ねる荒井晴彦の名を意識せずにはいられないが、お得意のグチャグチャした三角関係の世界が屈折することなく荒井美早に継承されていることに驚く。硬質な台詞といいロマンポルノ時代よりも、最初期の脚本協力作「噴出祈願 15歳の売春婦」を思い出すが、空疎な台詞があふれる時代には、この観念的な台詞が良くも悪くも際立つ。潔癖症のディテール、3人の関係性の変化が飽きさせず、濃密な時間を堪能する。「21世紀の女の子」の監督たちなら、どう撮るだろうか。

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