たちあがる女の映画専門家レビュー一覧
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ライター
石村加奈
冒頭のシーンで、環境活動家“山女”として荒野に立つ主人公ハットラに、すっかり魅了されてしまった(ジョディ・フォスターがリメイクを熱望したのも納得)。装い変われば、合唱団の講師然とする、女性らしい、軽やかな変化も痛快だ。後半、アイスランドからウクライナへの舞台転換も気持ちいい(過去を洗い流し、恵みをもたらす雨!)。ハットラが少女と出会うシーンでは、彼女の描く絵も、ブラスバンドから一転したピアノの音色も、全てがぴたりと調和して、やさしい時間になった。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
およそデタラメな通俗性から遠く隔たっているかに見える荘厳な景観の只中にあって、北欧の地で通俗活劇は可能なのか、という問題に監督エルリングソンが自覚的かは疑わしい。さしずめ関心は自然と文明の調和だろう。ところが映画とは不思議なもので、通俗に無自覚な精神に、高貴なる通俗性(これは語義矛盾ではない)が宿ることがある。精錬工場、鉄塔、ドローンなどの垂直物を破壊しながら横へ横へと逃走するヒロインは、「北北西」からどこへでも進路を取り得る活劇的存在だ。
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脚本家
北里宇一郎
自然破壊の大企業に抗して、ひとり闘いを挑む中年女性。そのあの手この手の奇抜なゲリラ作戦が面白く。本人は必死だけど、演出にどこかトボけた味があるのが嬉しい。特に伴奏音楽のミュージシャンが、随所で画面に登場する趣向が気に入った。「馬々と人間たち」の監督か。なるほど。官憲に追われての逃亡シークエンスも意外にサスペンスフルで。彼女を応援する牧場主の男、双子の姉、不運続きの旅行者など人物設定も愉しい。世の中に闘いの種は尽きまじ――てな幕切れに不屈の精神が。
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