帰れない二人の映画専門家レビュー一覧
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
賈樟柯の集大成的かつ人間模様を描いた異色作。主人公が携帯しているペットボトル。三峡ダム。雨。泥酔。頭で砕けるティーポットのお茶。人そのものが水のように常に形態や状態が変化し固定され得ない。詩人山尾三省の「水はただ流れているだけで真実に流れることはない。私たちは本当はかつては水であり……」という一節を思い出した。終盤分割されたモニターに映し出される世界は多元的で、真実の在り処がもはや不定で同時にたくさん存在している様を露わにしているようだ。
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フリーライター
藤木TDC
開巻早々、黄飛鴻のテーマ(将軍令)やジョン・ウーの「狼」挿入歌(サリー・イップ歌唱)が高鳴りオオーッと盛り上がるものの当然この監督だと通俗娯楽なわけなく、殺伐さとポストモダン度が驚異的な中国内陸部の景色のもと、出所した極妻が奏でるスローな「女ののど自慢」につきあうことに。中国の田舎やくざの日常、愛人妊娠サギ、UFOオジサンの苦いアフェア(涙)など魅力的挿話もちりばめ、もう帰れない歴史の彼方の高度成長期中国に捧ぐ庶民たちのアダージョ。
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映画評論家
真魚八重子
長回しの技術的な緊張感と、男女の間の張り詰めた空気が一体化する時間。スクリーンから溢れてくるディスコシーンの瑞々しさに打ちのめされてしまった。与太話と、したたかな女のユーモラスで時にしんみりする能動性と、歌謡映画としての楽しさ。ちょいと極妻のようなテイストも、映画のアーティスティックな傾向をうまく中和する効果を果たしている。義理と愛によるメロドラマの合間で、カタギじゃない男たちが部屋で揉めているうねりも、静的ながらダイナミックで目を奪われる。
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